飛行機は「富士山に近づかない」が鉄則、なぜ? 恐ろしさを知らしめた過去の大事故とは?

グライダーなどは逆に利用することも

 当時、富士山の山岳波から発生する乱気流は知られていましたが、ヘリコプターや小型機の飛行に影響を与える程度だと考えられていました。ところが事故調査の過程で、ボーイング707のような大型ジェット機すらも空中分解させるほど強力な乱気流が生じることが判明します。

 この事故を受け、富士山近くに設けられた航空路を飛行する際は、富士山より十分高い高度を確保したり、風上側を通るか風下側では大きく迂回したりすることが徹底されるようになりました。以降、富士山の山岳波による旅客機の墜落事故は発生していません。

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逆光で光る雲により可視化された富士山の斜面に吹く風(咲村珠樹撮影)。

 現在では富士山の場合、山頂付近に50ノット(風速約25.7m)以上の風が吹き、山頂付近の高さに逆転層(通常と違い高度が上がるにつれて気温が上がっていく空気の層)や安定層(高度が上がっても気温の低下がゆるやかな空気の層)があると、航空機に重要な影響を与える山岳波が発生することが判明しています。

 雲の形は気流の影響を受けるので、乱気流の発生を雲で判断することができますが、空気が乾燥していると雲が発生しないため、その場合は乱気流の存在を目視することはできません。気象庁では、1日あたり4回発表する「国内悪天予想図」で、富士山に限らず全国の山地で発生する山岳波など乱気流の発生を知らせており、航空関係者はその情報を参考に飛行ルートを決定しています。

 なお、山岳波は一般的な航空機にとっては極めて恐ろしい存在ですが、気流に乗って高く遠く飛ぶグライダーの場合は、逆に山岳波の上昇する部分、いわゆる「ウェーブ」と呼ばれる上昇気流を有効活用して高度をかせぐことができるため、飛行時間と飛行距離を伸ばすのに重宝するといいます。

 立場が違うと見方も変わるというのが、山岳波の興味深い点ではないでしょうか。

【了】

【これも気流の乱れ?】富士山の斜面に渦巻く雲の群れです(写真)

Writer: 咲村珠樹(ライター・カメラマン)

ゲーム誌の編集を経て独立。航空宇宙、鉄道、ミリタリーを中心としつつ、近代建築、民俗学(宮崎民俗学会員)、アニメの分野でも活動する。2019年にシリーズが終了したレッドブル・エアレースでは公式ガイドブックを担当し、競技面をはじめ機体構造の考察など、造詣の深さにおいては日本屈指。

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