理想形は「限りなく鉄道に近いバス」!? 名古屋の新交通システム「SRT」が示す「興味深い問題意識」とは
「SRT」が大切にしている「わかりやすさ」とは?
SRTの成否を決めるのは、まちを訪れる人が存在を認識できるよう、人をひきつけ、乗りたくなるようなシンボリックなデザインの車両や、まちなかで見つけやすいデザインの停留所など視認性・シンボル性を高めることなど、とにかく「わかりやすさ」です。
わかりやすさは見た目だけでは獲得できません。名古屋市は「鉄道と同等の路線」として認知されるよう、概ね10分以内の高頻度運転や夜間運行を想定し、「まちをつなぐ横のエレベーター」を目指すとしています。
先ほど「R」はRapidではないと書きましたが、報告書によればSRTは定時性を確保するため「専用・優先レーン設置」や「PTPS導入」、信用乗車制導入による「全扉乗降」を目指すとあり、機能上はBRTと同等です。
ただSRTの運行が想定されている「名城」「大須」「栄」は名古屋駅から半径3km程度の狭いエリアであり、停留所は観光利用を想定して500m間隔を想定しているため、速達性は特に重要な要素ではありません。そのため一般的なBRTが「車線中央側に設置された専用・優先レーン」を走行するのに対して、SRTは沿道との連携するため歩道側を走る「サイドリザベーション方式」を採用します。
公道上を走るバスに対し、軌道系交通は自ら線路を整備しなければならないため事業費が嵩みます。鉄道は固定された線路を走るため「路線」として地図に記載されますが、バス路線が地図に記載されないのは、ルート変更や路線廃止が容易にできる自由さの反面でもあるでしょう。
LRTに期待が集まるのは「路線」として可視化されるからという点が大きいはずです。鉄道の廃止・バス転換では反対に、地図から路線が消え、「まちのシンボル」を失うことへの不安の声があがります。両者は表裏一体の関係にあります。
しかし、BRTなど鉄道とバスの利点を兼ね備えた交通機関が登場する中、レールを走るか走らないかで線引きする必要は薄れています。一定の地上設備を有するBRTは「鉄道と同等のスタイルで地図上に記載」するなど、発想の転換も必要です。
バス路線が「わかりやすさ」を獲得するためには何が必要なのか。SRTの挑戦は、BRTの未来をも変え得る可能性があるのかもしれません。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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