「翼にジェットエンジン載っけた」異形NASA機、実は元プロペラ機!? 有能機がなぜ魔改造されたのか
DHC-5ベースで誕生した異形実証機
1970年代にジェット機が普及してくると、空港周辺ではジェット機の騒音が社会問題として顕在化してきました。
そこで、NASAとカナダ政府は共同でジェット機の低騒音化の研究を始めます。研究の目的はジェットエンジンの低騒音化、そして離陸時の上昇角度と着陸時の進入角度を増やすことで影響が及ぶ地域を減らすこと。そこで、2種類の実証機がDHC-5を改造して製作されることになりました。
最初の実証機はオーグメント翼実験機としてDHC-5を改造することになりました。主翼は新しく作り変えられ、補助翼とフラップの両方に吹き出し機構が組み込まれました。プロペラエンジンに代わってロールス・ロイス・スぺイを改造した特殊なファンエンジンが搭載され、ファンダクトから吹き出し用の空気が供給される仕組みでした。
そして、もう一つのDHC-5(C-8A)ベースの実証機が「QSRA」です。これは「静かな短距離実験機(Quiet Short-haul Research Aircraft)」の頭文字を採ったものです。推進装置であるプロペラを廃し、主翼前方に乗せる形で、4基の低騒音ファンエンジンを設置しています。
これはエンジンの排気を主翼の上面に沿って流すことで揚力を増やし、離着陸性能を改善することが目的でした。ただでさえ短距離離着陸性能に優れたDHC-5をベースとして、さらにその性能を尖らせた実験機ということもあり、海外航空メディア「FLYING」によると、離陸滑走距離約203m(664ft)、着陸滑走距離約168m(550ft)を最大パフォーマンスの数値として打ち出されたとのこと。実際に飛行試験も行われています。
なお、その後、これらの実証機によって得られたデータを利用した輸送機は登場しませんでしたが、その理由は1980年代から進んだジェットエンジンのハイバイパス化によってジェット機の騒音が減少したことではないかと筆者は考えています。
ちなみに、QSRAのような位置にエンジンを取り付ける方式は米空軍の試作輸送機YC-14や日本の実験機「飛鳥」でも採用されています。
【了】
Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)
航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事
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