2000年以上の悲願!?「世界最長のつり橋」ようやく着工へ 課題ありまくりでも実現にこぎつけた“大人の事情”
自然災害・環境破壊にマフィア
実は、シチリア島とイタリア本土を橋で結ぶ構想は2000年以上前からありました。メッシーナ海峡の最も狭い部分の距離は約3kmしかないため、紀元前251年には、いかだと樽をひたすら連結させて臨時の浮き橋を造り、軍事目的の象を140頭、イタリア本土に渡らせたことがあるという記述が残っています。
そんな至近距離にもかかわらず、それ以降、この海峡に橋やトンネルなどの頑強な建造物を造る構想は浮かんでは消え、消えては浮かび、また消えていきました。
古代から名だたる指導者たちを逡巡(しゅんじゅん)させてきた最たる理由は、自然災害だったと言えるかもしれません。メッシーナ海峡は海流が速くて複雑なことで悪名高く、潮流が安定しません。また、断層の上に位置し、1908年にはマグニチュード7超えの地震も発生しています。
近年では環境意識の高まりとともに、海峡付近の生態系保護も問題視されるようになりました。
マフィアの存在も妨げになっています。貧困層から搾取しているシチリアのマフィアにとって、橋がもたらす経済発展は邪魔なのです。また、マフィアと建設業の癒着もあるため、橋の建設がマフィアの資金源になるという問題もあります。
問題は山積したまま何一つ解決されていないにもかかわらず、2023年3月に橋の建設許可が正式に下りました。その裏には2つの「大人の事情」がありました。
まず、橋の建設で旗振り役を務める副首相兼インフラ大臣にして極右政党「同盟」の党首、マッテオ・サルビーニ氏のイメージ挽回(ばんかい)作戦です。
同盟は「反移民・欧州懐疑主義・反グローバリズム」などのスローガンで不満分子を扇動し、2019年の欧州議会選挙では34%という驚異的な得票率を獲得しました。しかしそこから人気は陰り、直近の調査では支持率8%前後と低空飛行が続いています。政治的不人気の中、6月には欧州議会選挙を再び迎えることから、それまでに、独裁者ムッソリーニや、政権を4回も握った故・ベルルスコーニ元首相が断念した橋の建設を実現させ、有言実行の頼れる指導者のイメージを獲得する必要があるのです。
極右政党「同盟」はもともと、北部イタリアを支持基盤にしています。南部イタリアに巨額投資をすることで、「全国的な指導者」という印象を植え付けたいという思惑も見えます。
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