2000年以上の悲願!?「世界最長のつり橋」ようやく着工へ 課題ありまくりでも実現にこぎつけた“大人の事情”
問題山積のまま許可が降りたワケ
橋の建設が現実味を急に帯びた2つ目の理由は、欧州連合(EU)から巨額の助成金を得られる公算が高くなったからです。
EUは現在、EU内の420以上の主要都市を鉄道や海路を組み合わせてつなぐ「欧州横断輸送ネットワーク(TEN-T)」にとても力を入れています。EUのインフラ投資基金、コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)は2014~2020年度に240億ユーロ(約4.6兆円)をすでにTEN-Tにつぎ込んでおり、2021~2027年度に306億ユーロ(約5.1兆円)の追加予算を発表しています(欧州議会による)。
この予算にイタリアが飛び付き、2024年4月、メッシーナ海峡大橋もTEN-Tの助成対象として検討するプロジェクトへ正式に加えられました。
ただ、2000年以上も実現せず、様々な政治家に野望を断念させてきたメッシーナ海峡の橋の建設は、やはり、一筋縄ではいかないようです。
というのも、TEN-Tの検討対象へ正式に加えられたことを発表する欧州議会の文章には、「150億ユーロ(約2.4兆円)ともいわれる橋の巨額建設費に比べて、経済的な費用対効果の説明が不十分。環境破壊の問題も解決されていない」という強い指摘も付記されています。そもそも、TEN-Tは環境に優しい輸送網の充実を大変重視しています。環境問題は譲れない論点になりそうです。
実際、橋の建設を担うStretto di Messina社はイタリアの環境大臣に「書類の準備が間に合ってない」と明かさざるを得なくなりました。結局、6月頭に着工予定だった橋の建設はすでに9月以降にずれ込みそうな暗雲が立ち込めています(イタリアのANSA通信による)。2千年越えの悲願の橋が本当に架かる日は、来るのでしょうか。
【了】
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。
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