「世界で最も美しい船」いかにも古臭い!? 「帆船」がなぜ今も重宝されるのか

なぜ商船三井は帆船を増やす?

 しかし、前述したように練習艦としては帆船が持つ有用性は認められており、1931年に「アメリゴ・ヴェスプッチ」建造に至ります。この「アメリゴ・ヴェスプッチ」は、「クリストフォロ・コロンボ」級の2番艦です。

 満載排水量4446トン、鋼鉄製船体で全長101m、最大幅15.5m。3本のマストはそれぞれ高さ50m、54m、43mあり、全て展開すると最大15ノット(約28km/h)の速力を発揮できました。補助としてディーゼル発電機も搭載しており、この場合は10ノット(約19km/h)の速力を発揮できるようです。機関使用時の航続距離は6.5ノット(約12km/h)で、5450海里(1万93km)でした。

 なお、1964(昭和39)年と2013(平成25)~2016(平成28)年に近代化改装を受け、新しいディーゼル発電機や電気推進機関、レーダーが搭載されています。

 就役以来、練習艦としての任務に従事し続けた「アメリゴ・ヴェスプッチ」ですが、変わったところでは1960(昭和35)年に、ローマ五輪の聖火をピレウスからシラクサまで輸送したことがあります。また、セーリングパレードや大型帆船レースにも参加し、ドイツ海軍の帆走練習艦「ゴルヒ・フォック」号とはライバル関係です。

 ちなみに「アメリゴ・ヴェスプッチ」は「世界一美しい帆船」と呼ばれることもありますが、これは1962(昭和37)年に、アメリカ空母「インディペンデンス」とすれ違った際、同艦から信号灯で「貴艦は世界で最も美しい船です」と発信されたことがきっかけです。2022年にもアメリカ空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」より、乗員敬礼のうえで「60年経っても、世界で最も美しい船」と言われたとされています。

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「アメリゴ・ヴェスプッチ」船上では乗組員との記念撮影も行われた(安藤昌季撮影)。

 古い技術と思われていた帆船は現代、その評価を高めています。帆の形自体もアップデートされているのです。

2022年に竣工した商船三井の石炭運搬船「松風丸」は総トン数5万8209トンで、“帆装”を持つ船では世界最大です。同船に使われているのは、繊維強化プラスチックで作られた伸縮可能な「硬翼帆」と呼ばれるものです。

 松風丸は通常の機関に加え、最大高さ53m、幅15mにもなる硬翼帆が備えられ、360度のうち310度までの風を推進力にできます。これにより重油消費量が減ったことで、従来船と比較して温室効果ガスが5~8%も削減されるとのことです。商船三井では、このような船舶を2035年までに80隻に増やすという目標を立てているようです。

 決して時代遅れではない帆船の将来がどのようになるか、注目されます。

【了】

【写真】これが「アメリゴ・ヴェスプッチ」船内です

Writer: 安藤昌季(乗りものライター)

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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