油井宇宙飛行士、元「空自テストパイロット」その実力とは

誰も操縦したことのない航空機を自分が初めて飛ばす「難題」

 油井飛行士は、TPCに入校する前、F-15戦闘機パイロットとして国防を担う実働部隊で勤務していました。F-15もそうですが、どんな航空機にもマニュアル(いわば取説)が既にあって、パイロットはそれを熟知した上で操縦します。

 しかし、新しく開発する航空機には、まだマニュアルがありません。これから新しい航空機を操縦する人たちのためにマニュアルを作らなければいけないのです。設計された航空機の性能は確かなものか、状況によってどんな操作を行い、どんな操作をしてはいけないのか。性能限界ぎりぎりを飛行して、航空機のデータをひとつひとつ取っていく必要があります。それがテストパイロットの仕事です。

 いまでこそコンピュータ技術が発達し、地上のシミュレーションで航空機の諸元をある程度はじき出すことができますが、実際にそのデータが本当なのかどうかは、飛んで確かめるしかありません。

 例えば、「マッハ1.0の速度が出せる」という航空機を開発したのであれば、実際にその速度を出して確認しなければならないのは当然のことです。その航空機の設計に誤りがあり、強度がマッハ1.0に耐えられなかったら、機体は上空で壊れるかもしれません。テストパイロットの仕事は、こうしたリスクと常に隣り合わせなのです。しかし、上空で想定しない事態に及んだとしても、通常のパイロットとは異なる、あらゆる対処法を学び、回避する訓練を積んでいます。

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NASAのT-38ジェット練習機の後席に乗る油井飛行士。パイロット出身者で宇宙へ旅立つのは、日本の宇宙飛行士としては初めてのことだ(写真出典:JAXA)

 油井飛行士は、映画「ライトスタッフ」を見てテストパイロットに憧れたと語っていますが、作品では宇宙飛行士を目指す米軍のパイロットが飛行中に制御不能で墜落、奇跡的に生還するシーンもあります。

 こうした高度な操縦技術を持つパイロットは、宇宙飛行士に向いているといわれます。アメリカのNASAでは宇宙飛行士を選抜する際、以前はテストパイロットの割合が高いものでした。危機に対処する能力、数値で状況を判断する能力、強靱な体力や精神力など、宇宙飛行士にも通じる資質・素養を持ち合わせているからです。油井飛行士は、JAXAにとって宇宙へ行く初の「パイロット」であり、まさに期待の人材といえるでしょう。

【了】

Writer: 坪田敦史(航空ジャーナリスト)

航空ジャーナリスト。パイロットの資格を持つ。航空会社、空港、航空機などの記事執筆・写真撮影を20年以上続ける。『わかりやすい旅客機の基礎知識』(イカロス出版)、『ヘリコプターの最新知識』 (SBクリエイティブ)など著書多数。最近はボーイング787、LCC、オスプレイといった航空関連トピックで、テレビや新聞でもコメンテーターとして活躍中。

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