空を飛べるのに…?「穴あき200億円トンネル」「豪華な跨線橋」を線路に建設 欧州で広まるコウモリ保護作戦

英国で建設が進む高速鉄道「HS2」が、森の中に長さ1kmにおよぶトンネル状の建造物を造ろうとしています。費用は1億ポンド(約200億円)以上。目的はコウモリの保護です。このような巨額を投じる“ニューノーマル”が、欧州で広まりつつあります。

コウモリの冬眠を待って工事決行

 ドイツ南西部のミュルハイムで、2020年、コウモリの保護のためにドイツ鉄道が160万ユーロ(2億6000万円強)をかけてコウモリ用の跨線橋を建設しました。

 跨線橋の工事が始まる前のミュルハイムでは、S字に大きく蛇行した小川の上を複線の線路が横切って走っていました。コウモリの巣と、餌になる虫が多い小川の領域が線路によって遮られてしまったため、線路の下をくぐって毎晩のように線路の反対側まで通っていたのです。ところが、この路線を近代化と高速化を目的に複々線(線路4本)に拡張工事すると、「コウモリが線路の反対側に行けなくなる」という環境アセスメントが出てしまったのです。

 コウモリは視覚を頼りに飛ぶのではなく、自ら発した超音波が木立などの障害物にあたって跳ね返ってくるのを聞き分けて飛行するため、幅が広い線路敷きや高速道路などのように上空に障害物が少ない空間が続くと飛べないといわれています(ネットワーク・レイル社による)。

 また、コウモリは先祖代々にわたって引き継いできた飛行ルートが存在し、それを遮るような工事を行うと、混乱したコウモリが餌場にたどり着けなくなったり、列車に衝突して命を落としたりするかもしれないそうです(ドイツ鉄道による)。この地区のコウモリの生息数は数百匹といいます。毎年1匹ずつしか子孫を残さないため、列車事故で命を落とすコウモリが1匹でもあっては大損失だというわけです。

 しかしそもそも、今すでにある複線の線路を新設した時に、先祖代々のコウモリの飛行ルートは一度すでに妨げられているはずです。コウモリが先祖の教えにどの程度忠実なのか疑問が残る話ですが、ミュルハイムが含まれるバーデン=ヴュルテンベルク州はもともと環境意識が高いドイツの中でも、環境政党の「緑の党」が州政府の与党という、特に環境保護に熱心な地域。コウモリが冬眠して飛行しなくなるのを待って、2019年9月から跨線橋の建設が行われました。

 2億円以上の予算をかけ、2020年9月に華々しく解禁したコウモリのための跨線橋ですが、それから4年以上がたった現在、ドイツ鉄道は取材に対して「跨線橋の効果はまだ調査中で結果が出ていません」と回答しています。

 思ったようにコウモリが通ってくれなかったのか、跨線橋の完成後、橋に向かってコウモリを誘導するべく植林をしたり、木が育つまでの措置として金網を立てたりする追加工事が行われています。日本の魚道に近い構造というと分かりやすいかもしれません。

 現在、複々線化の工事はすでに始まっており、2025年12月には開通予定です。

【豪華】人は渡れないドイツ鉄道の立派な跨線橋を見る(写真)

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