前代未聞「電車とバスの“二刀流運転士”募集」どっちも人手不足だから? 秘めた狙いを社長に聞いた

岡山電気軌道が全国で初めて、路面電車とバスの“二刀流”運転士を募集しています。別々の法律に基づき運行される交通機関ですが、実は意外と親和性もあるのだとか。両方を保有する岡電ならではの狙いがありました。

二刀流は“苦肉の策”?

 両備グループ幹部も「運転手の確保に必死で取り組んでいる」と強調します。

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インタビューに応じる岡山電気軌道の小嶋光信社長(大塚圭一郎撮影)

 バスと電車、物流、フェリー、タクシーで構成するトランスポーテーション&トラベル事業は2024年4月に定昇・ベースアップ(ベア)合わせて平均5%以上の賃上げを2年連続で実施し、乗務担当社員を1年間に200人募集する「宇宙一本気(マジ)な乗務社員採用プロジェクト」も2024年11月から2年目に突入しました。

 ただ、岡電の小嶋社長は「どうしても(両備ホールディングスが手がける)両備バスの方が集める力が強く、岡電は劣勢に立たされている」と解説します。そこで、岡電の強みとして目を付けたのが「路面電車とバスの両方を持っていること」でした。

 路面電車の運転士募集には応募者が集まりやすいといいます。「乗りもの好きの応募者が多く、それならばバスの運転にも興味を持つだろうと考えた」そうです。

 アメリカの大リーグ球団ロサンゼルス・ドジャーズの大谷翔平選手の活躍で「二刀流」が脚光を浴びていることも背景に、路面電車とバスの両方を担う二刀流乗務社員の募集を考えついたそうです。

実は「親和性がある」電車とバスの二刀流

 二刀流乗務社員はバス運転士を経て、路面電車の運転士となります。小嶋社長はこの段取りが「論理的にも道理に合う」と強調します。

 というのも、路面電車に適用される軌道法は「(バスに適用される)道路運送法とは親戚同士のような法律で、親和性が良い」ためです。路面電車の運転士になる前に「バスに入って道路運送法をしっかり覚えれば、交通規制やクルマの走り方などが分かるようになる」と指摘しました。

 そこには新職種を導入した“秘めた狙い”があります。小嶋社長は「路面電車の運転士になる前にバスを多く運転していれば、クルマの運転手がどのような運転をするのかが分かるため安全に対する認識が高まる」と語り、そうすれば安全運行が徹底されると期待感を示しました。

 小嶋さんは関西大手私鉄の南海電気鉄道が廃止する方針だった貴志川線を和歌山電鉄(和歌山市)で引き継いだ際、三毛猫「たま」を駅長に起用。脚光を浴びて国内外の旅行者が押し寄せ、再生への道筋を付けました。

 二刀流乗務社員も外部からの応募者だけではなく「岡電の路面電車の運転士からも希望者が出ている」と滑り出しは上々で、アイデアマンの健在ぶりを見せつけました。

【ナニコレ!?】二刀流で運転できる“びっくりデザインの電車とバス”(写真)

Writer:

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。

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