「レーダー無ェ!足は遅い!」対地攻撃に全振り「A-10」が歩んだ“七転び八起き”の半世紀とは? もうすぐ退役します
アメリカ空軍のみで運用される対地攻撃専用のジェット機であるA-10「サンダーボルトII」。誕生のきっかけはベトナム戦争の戦訓でしたが、その後、幾度となく目標変更と近代化改修が施され、現役であり続けました。ただ、間もなく退役します。
ジャングル戦では高性能な戦闘機はいらない!
アメリカは1964年のトンキン湾事件をきっかけにベトナム戦争に本格的に参戦しましたが、当時運用していた対地攻撃が可能なジェット戦闘機は核戦争を想定した機体が多く、ジャングルでの戦いが主体のベトナムには不向きでした。

戦闘機が地上で戦う友軍部隊を空から支援する任務をCAS(キャス;近接航空支援)と呼びますが、それに投入される機体は長時間戦場に留まれる滞空性能と、何度も反復して攻撃が行える多くの兵器搭載能力が求められます。特にベトナム戦争では、ジャングルに潜んでゲリラ戦を行う南ベトナム解放民族戦線(通称ベトコン)との戦闘が多く、開戦当初はこれに最適なジェット戦闘機が存在していなかったのです。
アメリカ空軍ならびに海軍は、CASに最適な機体として朝鮮戦争から使われている古い攻撃機A-1「スカイレーダー」を投入。この機体はジェット機ではなくレシプロエンジンで動くプロペラ機でしたが、低速ゆえに戦場に長時間留まることができたことから、CAS任務だけでなく、救難ヘリコプターとペアを組んで敵地に孤立した兵士を救出する戦闘探索救難任務(CSAR)でも活躍しました。
しかし、飛行速度が遅いということは、敵の反撃に対して脆弱ということでもあり、ベトナム戦争中は260機以上のA-1が撃墜されています。ちなみに、その多くは地対空ミサイルではなく歩兵や車両に搭載された小火器によってでした。
ベトナム戦争では戦闘機の対地攻撃能力の不足を補うために、既存の戦闘機の改良だけでなく、F-111「アードヴァーク」といった新型攻撃機まで開発されています。しかし、それとは別に地上部隊の支援に特化した機体を開発するために、CAS任務専門の攻撃機を開発する「A-X計画」を1966年より開始しました。この結果、誕生したのがA-10だったのです。
スカイレーダーはプロペラ推進ですがレシプロエンジンではなくターボプロップです。