「レーダー無ェ!足は遅い!」対地攻撃に全振り「A-10」が歩んだ“七転び八起き”の半世紀とは? もうすぐ退役します
アメリカ空軍のみで運用される対地攻撃専用のジェット機であるA-10「サンダーボルトII」。誕生のきっかけはベトナム戦争の戦訓でしたが、その後、幾度となく目標変更と近代化改修が施され、現役であり続けました。ただ、間もなく退役します。
対ソ連戦車部隊の急先鋒
A-X計画で求められた能力は、これまでの超音速で飛ぶ戦闘機とは真逆のものでした。長い飛行時間と低空域での良好な運動性能が要求された一方で、高高度や音速での飛行能力は求められませんでした。

ただ、兵装積載量は1万6000ポンド(約7300kg)が要求されたほか、固定装備として格段の破壊力を持つ30mmガトリング砲を搭載。また、レーダーなどのセンサー類は搭載されず、その代わりにシステムを簡易化することで、価格の低減と高い稼働率の維持が要求されました。
A-10が、唯一無二の特徴ある機体形状になったのは、こうした要求を満たすためなのです。アメリカ空軍においてCAS任務専用に開発された唯一の攻撃機であり、言うなれば、機能性を追求した結果、従来の超音速戦闘機にある格好良さやスマートさは存在しないと言えるでしょう。
こうして、A-10は1977年に配備されましたが、開発のきっかけとなったベトナム戦争は2年前の1975年に終結しており、ベトナムのジャングルで実戦に参加することなく終わっています。
しかし、A-10の任務がなくなったワケではなく、その後はヨーロッパ地域でソビエト連邦(現ロシア)との全面戦争に備えて配備されています。なお、実際に戦争が勃発した場合はソビエト連邦の強大な陸軍戦力と対峙、アメリカ空軍の地上攻撃の先鋒となることが期待されていました。
幸いアメリカとソビエト連邦の全面戦争は起きませんでしたが、その後のアメリカ軍が参加した戦いのほとんどで用いられ、1991年の湾岸戦争、1990年代半ばに起きたユーゴ紛争、2001年のアフガニスタン侵攻、2003年のイラク戦争などに投入されています。
また、2007年からは既存のA型をアップグレードしたC型の配備も始まり、操縦席のグラスコックピット化やアビオニクスの改良などが行われました。特に一番大きな改良点は、目標を捜して照準するターゲティングポッドを新たに搭載した点で、これによりレーザーならびにGPS誘導の精密攻撃兵器を運用できるようになり、より高精度な攻撃が可能になっています。
スカイレーダーはプロペラ推進ですがレシプロエンジンではなくターボプロップです。