「レーダー無ェ!足は遅い!」対地攻撃に全振り「A-10」が歩んだ“七転び八起き”の半世紀とは? もうすぐ退役します
アメリカ空軍のみで運用される対地攻撃専用のジェット機であるA-10「サンダーボルトII」。誕生のきっかけはベトナム戦争の戦訓でしたが、その後、幾度となく目標変更と近代化改修が施され、現役であり続けました。ただ、間もなく退役します。
現代戦では生き残れない?
当初は簡易的な攻撃機として開発されたA-10ですが、時代と共に改良され、前述したように最新の航空機搭載兵器も扱えるまでに進歩しています。しかし、近年ではその能力が疑問視されるようになり、アメリカ空軍は最新かつ高性能なF-35「ライトニングII」や無人機(ドローン)といった新しい装備に予算と人員を投入するために、A-10の退役を進めることを決めています。

A-10は地上攻撃において優れた能力を持つ機体ですが、逆に地上からの反撃には意外と脆弱です。一番の理由はこの機体が中高度以下の高度で活動する低速機である点で、現在の発達した地対空ミサイルや対空火器の前では、撃墜される可能性が極めて高いのです。
2007年以降にA-10が活躍した中東地域での対テロ戦争では、敵が防空システムを構築できない武装勢力だったため、戦闘では上空から一方的な攻撃が可能でした。しかし、現在脅威となっているロシアや中国のような近代的な正規軍と対峙した場合、これらの軍が保有する防空システムの前で、はA-10が撃墜されずに任務を行うのは難しいでしょう。
実際、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻では、低空を飛ぶ攻撃機や攻撃ヘリコプターは、ロシアとウクライナ、双方の両陣営とも多くの損害を出しており、A-10も同じような戦場に投入されれば、似た運命をたどるのは明白です。
アメリカ空軍では2029年までに全てのA-10を退役させる計画です。A-10はアメリカ空軍で唯一の対地攻撃機であるため、その支援を受けられるアメリカ陸軍やアメリカ海兵隊からは信頼を寄せられていますが、政治的な判断や防衛環境の大きな変化がなければ、今後4年ほどで、この特徴的な機体が姿を消すのは間違いないでしょう。
Writer: 布留川 司(ルポライター・カメラマン)
雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info
スカイレーダーはプロペラ推進ですがレシプロエンジンではなくターボプロップです。