もうコリゴリ!?「虎の子」機を喪失したロシア軍 代わりに高性能戦闘機を前線へ「でも明らか力不足」その理由は

2025年初頭、ロシア空軍は「虎の子」と言える早期警戒管制機を、ウクライナの攻撃で相次いで喪失した結果、最前線の航空管制を戦闘機にやらせるようになりました。一見するとうまくいっているように思えますが、じつは問題があるようです。

中東の大国も40年前、同様に使っていた

 しかしながら、この運用には致命的な限界があります。早期警戒管制機には、同時多目標の対処能力やデータリンクによる広域的な情報共有能力が備わっていますが、Su-35にはそれらがありません。根本的な部分でA-50とは大きな性能差があり、よってSu-35で空域全体の指揮統制を行うことは不可能です。

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A-50「メインステイ」早期警戒管制機。ロシア空軍の旗艦とも言える存在だが、2024年1月と2月に立て続けに撃墜されてしまった(関 賢太郎撮影)。

 それでも、ロシア空軍はこのような「疑似早期警戒機」運用を選ばざるを得ない可能性が高くなっています。A-50を再び最前線に送り込むことは、3機目の損失を覚悟しなくてはならないからです。

 興味深いのは、このSu-35による暫定的な早期警戒任務の発想に、かつてあった戦争の歴史が重なる点です。1980年代に起きたイラン・イラク戦争の最中、イラン空軍はF-14「トムキャット」を早期警戒機の代わりとして前線上空に配置し、味方に対してイラク軍機に関する情報提供を行っていました。これができたのは、F-14「トムキャット」が当時としては卓越した高性能レーダーであるAN/AWG-9を搭載していたからです。

 専用の早期警戒機の導入が困難な国情の中、苦肉の策としてイランが生みだしたこの戦術は、それから40年経った21世紀、ウクライナ戦争において再び蘇ったといえるでしょう。

「戦闘機による早期警戒」という運用は、本質的には応急処置であり、恒久的な解決にはなりません。高空から広域を一望する能力、各部隊にリアルタイムで戦術情報を分配する能力、敵の電子攻撃に耐える通信・管制能力、これらを満たすには、やはりA-50のような専用早期警戒管制機が不可欠です。

 しかし、ウクライナ戦争の激しい対空戦環境下においては、その専用機こそ最も「危うい」存在となることが露呈したのです。このことは、E-767早期警戒管制機やE-2C/D早期警戒機を多数運用する日本にとっても、学ぶべき点が大いにある事象だと言えるのかもしれません。

【これぞ中東のトムキャット!】独特な迷彩塗装が施されたイランのF-14(写真)

Writer:

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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