「戦車ゼロ」だった国が「最新型をしれっと導入」していた…策士オランダが選んだ防衛の最適解 政治的コスパ最強?

ロシアによるウクライナ侵攻で緊迫が続く欧州。そのなかでオランダの動きには、財政合理性と地政学的現実を見据えた、巧妙かつ柔軟な防衛戦略が浮かび上がります。

最新戦車レオパルト2A8をオランダが導入

 2025年5月14日、オランダはレオパルト2の最新バージョン「A8型」を46両発注したと発表しました。引き渡しは2028年から始まる予定です。「大規模な紛争の脅威があるなか、戦車は不可欠なツールだ」とオランダの国防担当国務次官は述べています。

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レオパルト2の最新バージョン「A8型」(画像:KMW)

 実はオランダは、かつては西側先進国としては珍しい「戦車ゼロ国家」でした。主力戦車をすべて手放したオランダが、再び戦車の取得に向けて動きを見せているのは、一見すると回り道のように見えるかもしれません。しかしその内実をたどると、財政的合理性と軍備の近代化を巧妙に両立させた事例としてみることもできます。

 オランダはかつて、最大で約900両の戦車を保有する戦車大国でした。1960年代からレオパルト1を465両配備し、1981年にはレオパルト2を最初に購入した国となり、445両を取得しました。当時のオランダの人口が約1400万人だったことを勘案すると、いかに防衛力の整備に注力し、また負担にもなっていたかが分かります。

 しかし2011年、オランダ政府は財政赤字の削減と安全保障戦略の見直しの一環として、保有していたレオパルト2A6戦車を全廃し、機甲部隊そのものを解体する決断を下しました。戦車の運用に伴う人員、訓練、整備、補給体制を縮小させ、戦車兵科は姿を消すこととなるのです。この大胆な政策には、当時大きな賛否が巻き起こりました。

 とはいえ、完全に戦車運用能力を失ったわけではありません。2015年からはドイツ陸軍と連携し、オランダ兵をドイツの戦車部隊に編入して第1戦車大隊(第43機械化旅団)とし、二国間共同運用の戦車部隊を創隊します。ドイツの車両を使用し、オランダ兵がこれを運用・訓練する形で、最低限の戦車運用能力を維持してきました。

 このモデルはNATO内での戦力共有の新たな形として注目され、コスト削減と即応性維持を両立するものとして評価する向きもありました。

 しかし2022年のロシアによるウクライナ侵攻を契機に、オランダ国内で「戦車ゼロ」という過度な合理化に対する反省が広まりました。戦車は単なる兵器ではなく、国家の意思や紛争抑止の象徴でもあるという認識も強まり、戦車戦力の独自再建へと舵が切られたのです。

【写真】オランダを守る戦車の昔と今

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