“道徳的圧力”になってしまった台湾版“優先席” 日本と同じ名前にすれば解決? 「博愛座」めぐる大議論のナゼ

台湾の公共交通機関にある、日本の「優先席」に相当する「博愛座」。これを日本などと同じように「優先席」へ改称する動きがあり、台湾で議論を呼んでいます。この「博愛」という言葉の解釈に世代間で齟齬が生まれ、「道徳的圧力」が生じているというのです。

「博愛」とは何ぞや?

 ここで台湾に古くから伝わる「博愛」の意味を改めて掘り下げてみます。

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台北のMRT淡水線の列車。写真はイメージ(画像:PIXTA)

 日本同様、中華圏でも「ひろく平等に愛すること」という意味ではあるものの、台湾での解釈はさらに深く「自分の家族や国だけではなく、社会にいる弱い人を助けるべき」といった考え方で、この概念の代表的な熟語が、中国の儒学思想家として知られる孟子による以下のものです。

 吾が老を老として、以て人の老に及ぼし、吾が幼を幼として、以て人の幼に及ぼす

 筆者は「わが家の老人を敬い、その気持ちを延長して他人の老人をも敬う。わが家の子どもをかわいがり、その気持ちを延長して他人の子どももかわいがる」と意訳して認識しています。確かに日本の「優先席」というワードよりも奥行きと人間的な温かみを感じますし、「博愛座」の本来の利用対象者の設定にも当てはまるでしょう。

「博愛座」「優先席」論争はまだまだ続きそうな気配

 一方、台湾もまた超高齢化社会を迎えつつあり、必ずしも「身体弱者」的な老人ばかりではなくなったことも、この「博愛座」をめぐる論争に火をつけています。

「博愛座」にあえて座った若者に対し、老人のほうが暴力を振るうなどの事態も度々起こっていることから、台湾でのとある調査では「博愛座を廃止すべき」と回答した人が6割超えにも至ったことも、「優先席」への改称法案が通過した理由でもあったようです。

 立法院の資料では、博愛座について「見た目が健常でも実際には座る必要のある人が利用できない」「高齢だが必要がない人が優先対象とされ、矛盾が生じる」といった問題を指摘しています。

 そのうえで、もともと善意に基づく立法であったものの、それが「感情的な強要」や「道徳的な圧力」による対立を生んでしまっているのであれば、それは立法の本意ではない、とも。台湾における「博愛座」か「優先席」かの論争はまだまだ続きそうな気配です。

【あ、ちょっと違う…!】これが台湾の優先席「博愛座」です(写真)

Writer:

1971年、東京都生まれ。編集プロダクション・deco代表。バイク、クルマ、ガジェット、保護犬猫、グルメなど幅広いジャンルで複数のWEBメディアに寄稿中。また、台湾に関する著書、連載複数あり。好きな乗りものはスタイリッシュ系よりも、どこかちょっと足りないような、おもちゃのようなチープ感のあるもの。

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