ダイハツのフラッグシップだ!「渾身の力作」が登場直後に大ゴケした真相 “鳴かず飛ばず” でも販売10年以上なぜ?
バブル絶頂期に販売された乗用車「アプローズ」は、実用性に優れ、完成度こそ高かったものの設計ミスから車両火災を起こし、大手新聞が叩いたことから命運を絶たれました。「ダイハツ渾身の力作」のあまりに気の毒な末路を振り返ります。
「喝采」ならぬ「火災」が引き金に 大手紙のネガキャンで命運絶たれた
しかし「アプローズ」の属するコンパクトセダン市場には、「カローラ」や「サニー」のような競合がひしめくレッドオーシャンです。大手メーカーのように宣伝費をかけられないダイハツは、マスコミや購入者の「良いクルマ」という評判を頼りに、長い時間をかけてじわじわと販売を上向かせていく腹積もりだった模様です。ただ、ダイハツのそのような思いは、結局叶うことはありませんでした。

最初のつまずきは発売直後のATとオルタネーターのリコールです。もちろん、ダイハツはすぐさま運輸省(現・国土交通省)に届けて真摯に対応したのですが、折悪くその日は第28回東京モーターショーの一般公開の初日で、マスコミ取材に対し、自動車工業振興会会長が出品自粛を要請するようなコメントをしたことが、テレビや新聞で報じられてしまいます。
さらに翌月には、燃料タンクの空気抜きの設計ミスから、立て続けに2件も火災事故が発生。全国紙のうちの一紙がネガティブキャンペーンを張り、執拗に「欠陥車」とあげつらったことで「アプローズ」の命運は完全に絶たれました。
たしかに設計ミスによる車両火災はダイハツの落ち度です。しかし、ダイハツはただちに運輸省へリコールを届け出て誠実に対応しています。これが巨額の広告宣伝費をもたらすトヨタや日産だったら、この新聞社は同じように報道したか疑問が残ります。
しかし、残念ながらダイハツの宣伝広告費は少なく、この新聞社の懐を満足させてくれるようなクライアントではなかったのです。
結局、出鼻をくじかれたことで「アプローズ」の販売は低迷。ラインナップを維持することを考えれば生産中止にすることもできず、かといってモデルチェンジをする資金もありません。そこでダイハツは少しでも開発費を回収するべく、一部改良やマイナーチェンジを繰り返しながら「アプローズ」を長期にわたって細々と売り続ける道を選択しました。
後継車の「アルティス」(トヨタ「カムリ」のOEM車)が登場したのは2000年3月なので、「アプローズ」それまで11年にわたって販売が継続されました。このクルマの完成度は高く、傑作と言って良いほどの出来だったので、現在も「アプローズ」を評価している筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)としては「あの車両火災がなかったら…」と思うと本当に残念でなりません。
Writer: 山崎 龍(乗り物系ライター)
「自動車やクルマを中心にした乗り物系ライター。愛車は1967年型アルファロメオ1300GTジュニア、2010年型フィアット500PINK!、モト・グッツィV11スポーツ、ヤマハ・グランドマジェスティ250、スズキGN125H、ホンダ・スーパーカブ110「天気の子」。著書は「萌えだらけの車選び」「最強! 連合艦隊オールスターズ」「『世界の銃』完全読本」ほか」に
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