「海の化け物だ、見てはいけない…」 誰にも知られないはずの「原潜世界一周ミッション」を“見てしまった男”の末路

1960年、アメリカ海軍の原子力潜水艦USSトライトンは、世界初となる潜航状態での世界一周を成し遂げました。しかしその極秘任務の最中、太平洋の波間で思いがけない「目撃者」と遭遇していたのです。

「アメリカ人が自分を探している、怖かった」

 後日、ナショナルジオグラフィック誌がこの漁師を探し出し、フィリピンのマクタン島プンタ・エンガノ出身の19歳、ルフィーノ・ベアリングであると特定しました。フリーランス・スター誌の記者が本人に取材し、1960年11月6日号で記事となりました。

「海の化け物に見え、とても怖かった。できるだけ早く逃げようとした」「この出来事を誰にも話さなかった」「数か月後、アメリカ人が自分を探していることを知った。理由には心当たりがあった。『化け物』は見てはいけないものだったのだ。怖かった」とルフィーノは同誌のインタビューに答えています。

 記事には、「ルフィーノが潜望鏡から写真を撮られ、アメリカ海軍の公式航海日誌にも載っていること。彼がトライトンを見つけた唯一の民間人であることを告げると、彼は恥ずかしそうに、はにかんだ」と紹介されています。また、ルフィーノは自分のアウトリガーカヌーに、トライトンの世界一周基準点にちなんで、「セントピーターアンドセントポール」と名付けたそうです。

 USSトライトンのその後ですが、維持費が莫大で、船体も大きすぎて運用しづらかったため、就役からわずか10年後の1969年に退役し、予備役に編入されました。これはアメリカで最初に退役した原子力潜水艦でした。1986年に除籍されましたが、2基の原子炉を持つ構造は複雑すぎて解体に時間かかり、完了したのは2009年11月30日付でした。

 現代では、1隻の戦略ミサイル原子力潜水艦が、一国を滅ぼせるような破壊力を持つまでになっています。1960年のエイプリルフールに、フィリピンの漁師が波間に見たのはまさに「海の化け物」だったのです。

【原潜vs.カヌー】潜望鏡越しに見えた手漕ぎカヌーの漁師(当時の写真)

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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