低い・狭い・後席は壊滅的 「実用性ないクルマが1台くらいあっても」で生まれたセダンの顛末
「カリーナED」の商業的な成功により昭和末期から平成初期にかけて一大ブームとなったのが背の低い4ドアHT車です。そのブーム末期に登場したクラス最小の4ドアHTモデルは、流麗なスタイリングと引き換えに居住性能は劣悪なものでした。
人が乗れない!? 劣悪だった「セレス/マリノ」の車内
そのような4ドアHTブームの末期にトヨタがリリースしたのが、「カローラセレス/スプリンターマリノ」の姉妹車でした。この2台はさらに車格の小さな「カローラ/スプリンター」をベースにしたことで、全高は「カリーナED/コロナEXiV」と同じ1315mmであっても、居住空間(とくに後席の)はさらに劣悪なものとなりました。

このクルマの乗車定員は5人とされていましたが、スペース的に大人がフル乗車することは事実上不可能で、4人乗車の場合でも、乗員の身長が170cmを超えると厳しく、165cm以下の人でなければ、正しい姿勢で乗ることはできなかったとか。ちなみに、「スプリンターマリノ」のCMキャラクターは身長164cmの藤井フミヤ氏でした。
たしかに「カローラセレス/スプリンターマリノ」は、流れるような流線形をしており、なかなかスタイルのいいクルマでした。しかし、それは置きものとしてのカッコ良さです。
置きものならば人が乗ることはないので、見栄えが良ければそれで良いのかもしれません。しかし、自動車のカタチの内側には機械としての機能、すなわち、エンジンやサスペンション、駆動系などのメカニズム、人間が乗るための居住空間、ラゲッジルーム、衝突時に衝撃を受け止めるクラッシャブルゾーン、そしてそれらをすべて支えるボディやシャシーなどの構造そのものが内包されています。
これらメカニズムをどのように配置し、どのように空間を構成するかを「パッケージング」と呼び、パッケージングの上から人間の感情を刺激するためにボディの凹凸をつけることを「スタイリング」と呼びますが、そうした点を煮詰めたのかというと、その部分には首をかしげざるをえないデザインです。
そうしたことを鑑みると、「カローラセレス/スプリンターマリノ」はトヨタがブームに乗っかって安直に作りすぎたきらいのあるモデルだったと言えるでしょう。
なお、「カローラセレス/スプリンターマリノ」がデビューして間もなく、RVブームが到来したことで4ドアHTの人気は終焉を迎えました。結果、このようなクルマは以後生まれていません。
Writer: 山崎 龍(乗り物系ライター)
「自動車やクルマを中心にした乗り物系ライター。愛車は1967年型アルファロメオ1300GTジュニア、2010年型フィアット500PINK!、モト・グッツィV11スポーツ、ヤマハ・グランドマジェスティ250、スズキGN125H、ホンダ・スーパーカブ110「天気の子」。著書は「萌えだらけの車選び」「最強! 連合艦隊オールスターズ」「『世界の銃』完全読本」ほか」に
コメント