だ~れもいない森のなかに「やけに立派な線路」なぜ? 本州最北の地に広がる珍景…実は「重要なモノ」を運んでいた!?

日本本州の最北端、下北半島の人里離れた場所に線路が残っています。ここは、かつて総延長60kmにも及ぶ大規模な鉄道路線だったそうですが、なぜこのような場所に設置されたのでしょうか。

全国の森林に張り巡らされた森林鉄道

 そこでより確実な方法として整備されたのがこの森林鉄道なのです。

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薬研付近にある材木保管場。現在も下北では林業が盛んで、ヒバの加工品は地域の名産品として販売されている(布留川 司撮影)。

 青森ヒバは下北半島だけでなく、その隣の津軽半島にも生息地域があり、こちらでは下北半島よりも早く1909(明治42年)年に「津軽森林鉄道」が完成。また、下北半島ではこの「大畑森林鉄道」のほか、南方に「川内森林鉄道」が整備され、鉄道が各地域の林業を支える重要な交通インフラとなったのです。

 ただ「大畑森林鉄道」の特徴はこれだけではありません。一部区間が林業だけでなく旅客輸送にも使われたのです。

 線路跡が残る薬研は、67度の高温泉が湧く温泉郷として知られ、昭和初期には保養地として多くの観光客で賑わいました。本来は木材輸送のための鉄道でしたが、観光ブームを背景に旅客輸送も許可されます。1936(昭和11)年10月には秩父宮同妃両殿下が森林鉄道に乗ってご来訪になり、「薬研の渓流はよい景色である。青森県にもこんなよいところがあるとは知らなかった」と述べられたといいます。こうしてこの鉄道は、薬研地域の林業と観光の双方を支える存在となりました。

 しかし時代とともに自動車の普及と道路整備が進むと、その役割は終わりを迎えます。材木輸送はトラックに切り替わり、観光客もバスや自家用車を利用するようになったことで、この地域の森林鉄道は1970年代までに全廃されました。

 現在も線路が残る遊歩道は、薬研の奥薬研修景公園から徒歩でアクセス可能です。現地へは車のほか、むつ市のデマンド型乗合タクシーも利用できます。公園にはレストランや温泉付きのレストハウスがあり、下北半島のツーリングやドライブの途中で立ち寄る人も多いようです。

 遊歩道周辺は「大畑ヒバ施業実験林」として行政管理が行われ、ハイキングコースとしても歩きやすく整備されています。線路は枕木の多くが失われており、現役ではありませんが、レールは残っており、当時の面影を感じることができます。

「ずい道」と呼ばれるトンネルも現存し、全長約100メートル、高さ約2.5メートルの内部は徒歩で通行可能です。このトンネルは昭和初期に建設され、自然石をツルハシやハンマーで手掘りしたもので、内部の壁は凹凸が目立つ独特の風合いを見せています。

 ただ、筆者が2025年7月に訪れた際、地元の方から「夏の山はクマやハチが出るので注意」との助言を受けました。訪れる際は十分な準備を整えることをおすすめします。

【写真】異様だ…これが「人のいない森の中の線路&トンネル」全貌です

Writer:

雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info

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