まるでホテル!な「豪華高速バス」なぜ生まれなくなったのか? 明暗を分けたもの

個室風座席の「マイ・フローラ」や完全個室の「ドリームスリーパー」など、一時期話題となった夜行高速バスの豪華バス。最近は新たな豪華バスの話題を聞かなくなりました。事業者は戦略を変えたのでしょうか。

東京~大阪 別の「戦い方」も

 その東京~大阪で別の戦い方をした事業者もあります。西日本ジェイアールバス/ジェイアールバス関東は、半世紀以上の歴史を誇る路線愛称「ドリーム号」を、一つの「ブランド」に昇華させました。2017年に登場した豪華車両「ドリームルリエ」でメディア露出を図ったのです。登場時には有名女性アイドルをアンバサダーとして起用しました。

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高知駅前観光の東京-徳島・高知線。ソメイユプロフォンはモニター運行を終了。ブラッシュアップして通常運行へ(画像:高知駅前観光)。

 一方で、座席定員も運行便数も多い、3列シートの「グランドリーム」や4列シートの「青春エコドリーム」で収益を得る戦略です。

 豪華車両をブランドの「アイコン」として活用する手法はWILLER EXPRESSや平成エンタープライズ「VIPライナー」にも共通で、特に後者は専用の待合ラウンジもメディアによく登場します。いずれもメディア露出でブランドの認知度を上げつつ、各種の会員プログラムでリピーターを上手に囲い込んでいます。

新時代の象徴「フルフラット座席バス」の戦略

 2025年1月、コロナ禍を経て久しぶりに話題をさらった高速バス車両が、高知県の後発事業者、高知駅前観光が地元製造業の協力を得て作り上げたフルフラット型座席「ソメイユプロフォン」です。

 座席は上下二段式ですが、その第一印象は「狭い!」です。ところが、いざ座って(寝て)しまうとフルフラットの効果は抜群で熟睡できます。東京と高知の間が近くなった印象さえ感じます。

 この、狭いという第一印象は、実は同座席の利点の一つでもあります。というのは、二段式としたことで座席定員を24席(トイレ付きの場合)確保できるからです。「マイ・フローラ」や「ドリームスリーパー」の2倍です。

 国全体の労働力不足を受けバス乗務員も不足する中、多くのバス事業者で「広告塔」のためだけに特別なバスを毎日走らせる余裕はなくなってきています。「ソメイユプロフォン」は、話題性と収益性を両立させた「いかにも今日的なフラッグシップ車両」と言えるでしょう。

 モニター運行は8月で終了し、その結果を踏まえ車両や座席をブラッシュアップしたうえで通常運行を開始するとともに、全国のバス事業者にも同座席の提供を図るとのことです。車両の一部にのみ導入し、他は一般的な座席とすることも可能ですから、少ない運行台数で多様な座席の選択肢を提供する事業者も出てくることでしょう。

 バス事業者の戦略は、環境に合わせて変化していくものなのです。

【今も乗れる!】ぜんぶホテル並み!「豪華高速バス」車内(写真)

Writer:

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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