新幹線で“故障”相次ぐ! しばらく運休した路線/すぐ再開の路線、なぜこんなに違った? 実は“重篤”だった東海道
2025年6月の山形新幹線E8系に続き、8月には東海道新幹線N700Sが車両故障を起こしました。しかしその後、山形新幹線はE8系の複数編成の使用を中止したのに対し、東海道新幹線は基本的に平常運行を継続。この異なる対応には、どのような背景があったのでしょうか。
「不幸中の幸い」だったこと
E8系の補助電源装置の不具合は、複数車両でほぼ同時に起きています。このため、当日の立ち往生をはじめ、故障した車両が複数あることで、山形新幹線「つばさ」を長期間にわたって運休させる結果となりました。
N700Sの主変換装置の不具合は、あくまでも特定の個体で発生したもので、何らかの固有の原因と想定されています。単体での故障であったため、不具合が発生した後も正常に動作している他の車両がカバーする形で走行を継続できました。
N700Sは16両編成ですが、電気を取り入れるパンタグラフは編成に2台備えています。パンタグラフから取り入れた電気は編成内に4つある主変圧器に送られ、主変圧器で電圧を下げてから主変換装置や補助電源装置に送電されます。
主変換装置は先頭車を除いた中間車全14両に搭載され、電力を加減しつつ台車に備えたモーターに電気を供給することで走行する仕組みです。仮に主変換装置が1台(1両分)故障しても残りの13台(13両分)で走行が継続できるようになっています。
今回のように主変圧器が損傷した場合も、残りの健全な主変圧器によって走行が継続できます。1台が4両分を担当しているため、1台が故障した場合、残りの12両で走行が継続できる構造です。
今回、N700Sが故障を起こした場所は、米原駅と岐阜羽島駅の間でした。岐阜羽島駅には待避線が上下線に2本ずつあり、故障が発生した列車を停車させても残りの1線を用いて列車の追い越しが可能です。実際には、「こだま764号」が終電間際の列車だったため、救済の目的で後続の「のぞみ64号」の一部区間を各駅に停車させる処置が行われています。
しかし、故障した「こだま764号」が他の線路をふさぐ事態は発生せず、翌日以降の列車の運行にも影響していません。今回、故障が発生した「こだま764号」に使用されていたN700SのJ52編成は、故障の発生から原因調査と修理のために浜松工場へ移動するまで5日間、岐阜羽島駅に留置されました。同駅から移動したのは8月21日の深夜でしたが、この間も東海道新幹線は平常運行されています。
今回の事態を踏まえてJR東海は、主変換装置のパワーユニットで異常が発生した場合は、異常が発生したパワーユニットに供給する電気を止めるべく、真空遮断器によって電気を遮断する処置を行うようにしています。
また、遮断器は、遮断した電流が大きいほど寿命が短くなる傾向にあります。遮断器は電気回路のスイッチに当たる部品ですが、新幹線を動かすような大きな電流の場合は、スイッチを切ったつもりでも電流が切れない場合があります。新幹線の場合は、真空遮断器を用いてスイッチの部分を真空にすることで絶縁耐力を上げ、大きな電流でも遮断できる仕組みになっています。
今回のように、主変換装置が破損するような事例では、遮断器に大きな電流が流れます。この大電流を検知することで、自動的に遮断器が動作して電気を切る機構を備えています。これを「保護動作」と呼んでいますが、先の通り大電流を遮断することで遮断器の寿命が短くなります。今回の事例を踏まえ、大事を取って保護動作を行った遮断器を順次交換することになっています。
JR東海の発表は、これらを暫定対策としていますが、それでも主変換装置から発煙が発生するような事態はなくなりそうです。
Writer: 柴田東吾(鉄道趣味ライター)
1974年東京都生まれ。大学の電気工学科を卒業後、信号機器メーカー、鉄道会社勤務等を経て、現在フリー。JR線の2度目の「乗りつぶし」に挑戦するも、九州南部を残して頓挫、飛行機の趣味は某ハイジャック事件からコクピットへの入室ができなくなり、挫折。現在は車両研究が主力で、技術・形態・運用・保守・転配・履歴等の研究を行う。鉄道雑誌への寄稿多数。資格は大型二種免許を取るも、一度もバスで路上を走った経験なし。
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