インバウンドで潤ってるんじゃないの? さらに値上げ「貸切バス」縮小市場で各社は何を?
貸切バス運賃がさらに値上げ。一時は「買い叩かれる」存在だった貸切バスは、横並びの運賃制度で保護されました。しかし市場が縮小するなか、老舗が貸切バス事業から撤退するなど、各社が“次”を模索している状況です。
東京の老舗貸切バスはすでに「撤退」も
例えば東京の老舗5社で見ると、まず老舗中の老舗「ケイエム観光バス」は、百貨店送迎など例外を除いて一般的な貸切バス事業から2021年に撤退済みです。

同社と並ぶ老舗「帝産観光バス」は、東京と大阪に営業所を構える利点を活かし、貸切バスに加え高速バス事業に積極的です。2012年に新設された「貸切バス型管理の受委託」制度を活用し、まずは西日本ジェイアールバスやWILLER EXPRESSから高速バスの続行便(2号車、3号車)の受託運行を始め、現在ではWILLERとの提携で高速バス路線の自主運行にも進出しました。「ヤサカ観光」も同様に高速バスの受託運行を行っています。
「日の丸自動車興業」は、「スカイバス東京」など個人客向けの定期観光バスや、東京駅周辺などの無料巡回バスの運行業務にも注力。大型バス未経験の新人乗務員は、まずは決まったルートを走る無料巡回バスからスタートし、将来的には二階建てバスなどにも挑戦するというキャリアパスの生成にも成功しました。
5社で唯一、貸切バス事業に専念するのが「東都観光バス」です。経営者の若返りを機にITを積極活用するなどし、主に教育旅行の分野をさらに追求しています。
やはり狙うインバウンド その先に成長は?
老舗たちが「五社五様」の戦略を採る中、地方部の会社や中小事業者らは、アジア各国などからの小パーティ(数人~十数人程度の小グループでの訪日)市場をターゲットに、中型バスやマイクロバスに高級座席を設置したハイグレード車両を導入したり、バスではなく高級ミニバンを使う新業態「都市型ハイヤー」に参入したりする事例も目立ちます。
考えてみれば、高度経済成長期からバブル期まで、厳しい参入規制の下、それぞれの県で貸切バスを営業することができる「配車権」こそが、貸切バス事業者にとって生命線でした。規制緩和以降は、低運賃を売りにする新興、零細事業者が多くの仕事を奪いました。では運賃額が横並びとなった今、貸切バス事業者の生命線は何でしょうか。
一つには、安全確保の取り組みを具体的に公表し、旅行会社や学校、保護者らからの信頼を得ることです。
もう一つ、国全体で労働力が不足する中で、いかに乗務員を確保するかも重要です。そのためには、大型バス未経験者を採用し、定着、成長させるキャリアパスが必要です。例えば、新人は小さめの車両で決まったルートを走行する送迎バスに乗務し、やがては「花形」の、大型車両で全国の観光地へ向かうような業務へ、あるいは指導者や管理者へ、成長のステップを明確に示すことです。
貸切バス事業者自身もまた、成長戦略を描くことが求められています。足元の高収益を従業員の待遇改善や車両更新に上手に投資するとともに、高速バスなど新たな分野にも挑戦し「一歩ずつ階段を上る」ステップを描けなければ、いかに足元が高収益でも、縮小する市場から追い出されてしまうでしょう。
Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)
1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。
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