防御力ダメダメ戦車がまさかの無双! スグ使えることに特化した「コンパクト戦車」英国で生まれたワケ

戦車ほど防御力も火力も強くないけれども、装甲車や歩兵にとっては厄介な存在なのが、軽戦車です。では軽戦車のメリットは何かというと即応性の高さです。それが最大限発揮されたのがフォークランド紛争でした。

中小国にとって使い勝手の良い戦闘車両に

 アルゼンチン軍も105mm戦車砲を搭載した30t級のTAM戦車や、フランス製のAMX-13軽戦車を保有していました。しかし輸送手段がなく、フォークランドには投入されていません。

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「スコーピオン」軽戦車と同じ車体ながら、30mm機関砲塔を組み合わせている「シミター」偵察戦闘車。こちらは2025年現在もイギリス陸軍で現役である(柘植優介撮影)。

 その結果、アルゼンチン軍が「スコーピオン」に対抗するためには、歩兵携行用の対戦車火器もしくは対戦車地雷を使うしかありませんでした。ところが「スコーピオン」は歩兵支援に徹したため、アルゼンチン兵は近づくことができず、「スコーピオン」と「シミター」は無双状態だったのです。

「スコーピオン」は紙のような装甲しかない軽戦車ですが、それはあくまで相対的な評価に過ぎません。敵に対抗できる兵器がなければ、いくら「紙装甲」であっても恐るべき火力プラットフォームになります。

 実際、フォークランドで「スコーピオン」に対峙したアルゼンチン軍兵士は、「戦車」の出現にパニックを起こしています。これが、もしAMX-13軽戦車を持ち込んでいれば、イギリス軍はより慎重な作戦を強いられ、紛争が長期化していた可能性もあります。

 このような戦車の有無が戦局を左右した実態を見て、アジア、アフリカの小国はこぞって「スコーピオン」を導入しました。開発メーカーのアルヴィス社は、突然の特需を前にして、搭載砲を90mm低圧砲に強化した「スコーピオン90」まで開発して、新たに顧客の掘り起こしを行っています。

 結果として、「スコーピオン」系列の軽戦車は主力戦車を保有できない中小国の貴重な装甲戦力の座を勝ち取りました。そしてシリーズ全体で3000両を超えるベストセラーAFVとなり、誕生から60年近く経ったいまも10か国以上で運用され続けているのです。

【写真】凄いゴテゴテ感! 増加装甲モリモリな「シミター」戦闘車です

Writer:

1973年生まれ、上智大学文学部史学科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科中退。 雑誌編集者、ゲーム会社ウォーゲーミングジャパン勤務等を経て、各種メディアにて歴史・軍事関連の執筆や翻訳、軍事関連コンテンツの企画、脚本などを手がける。Youtube「宮永忠将のミリタリー放談」公開中。

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