「水素で走る大型トラック」普及のカベは? 「スペック的には有能」でもEV車とは事情が違う

JMS2025において三菱ふそうが公開した水素で動く新しい大型トラック(10t車)のコンセプトモデル「H2IC」と「H2FC」。どのような性能で、普及にはどのようなカベがあり、

トラックのゼロエミッション化の答えはひとつじゃない

 液体水素をトラックの動力に使うのはこの「H2FC」は国内初であり、それを供給するサプライヤーも岩谷産業(三菱ふそうとサブクール液体水素の充填技術を共同研究開発)だけとなっています。ちなみに岩谷産業は、カセットコンロやカセットボンベで有名なIwataniでもあります。

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液体水素を燃料とする「H2FC」(布留川 司撮影)

 同社は国内に水素の供給拠点として3カ所を可動させ、全国の約160カ所の水素ステーションのうちの51カ所を運営していますが、水素の普及とスケールメリットによる低価格化を目指すのであれば、拠点整備や増産、さらには別企業の参入なども必要となってくるでしょう。

 水素をエネルギー源とするトラックは、今回の三菱ふそうの「H2IC」や「H2FC」だけでなく、日野自動車とトヨタ自動車共同の「燃料電池大型トラック」、いすゞ自動車とホンダ自動車共同の「ギガ・フューエル・セル」などもあります。いずれも能力的にはディーゼルエンジンの車両と並ぶ部分もありますが、現時点では開発段階や実証試験での運用に留まり、価格面やインフラなどの問題から実用化には至っていません。

 ディーゼル燃料を使わない大型トラックのゼロエミッション化は今後もさまざまな形で開発が進められていくと思われますが、その選択肢のひとつである水素だけをみても、実用化には技術的な問題だけでなく、インフラ整備や社会への普及といった外的な要因も影響しており、どのような技術や車両が採用されるかは断定することはできません。

 自動車のエネルギー源として利用されるガソリン、ディーゼル燃料、電気、水素には、それぞれに長所と適した運用方法があり、すべてがひとつの形式に纏まることはないでしょう。これはトラックに限らず人や貨物を運ぶモビリティー全般にいえることであり、これを適材適所で同時に使われて(マルチエネルギー、マルチパワートレーン)いくことが、現実的な未来なのかも知れません。

【え、カセットコンロで見るロゴだ!】これが、イワタニ製の水素ボンベです(写真)

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雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info

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