「乗るだけで職業病確定」「即刻使用禁止レベル」 ヤバすぎる“新型装甲車”問題 なのに大臣は「安全宣言」どう落とし前をつけるのか!? イギリス

2025年11月、イギリスの新型装甲車「エイジャックス」で演習に参加した兵士31人が障害症状を示し、国防省は運用を停止にしました。同省の装備調達担当大臣が「安全宣言」を出したはずの新型装甲車ですが、専門家は「乗るだけで職業病確定レベル」と指摘しています。

「兵士を実験台にした人権問題」との指摘も

 装甲車両研究家のJon Hawkes氏によると、エイジャックスは、国際的に認められている全身振動の健康リスク限界値を2~5倍超過しており、「乗るだけで職業病確定レベル」と指摘します。

 特に悪化させる要因として、軍用車両特有の硬くて垂直姿勢を強いられる爆風対策シートは振動が骨盤から脊椎に直撃、ヘルメット+ヘッドセットの重量で首へのモーメント増大、狭い車内で正しい姿勢が取れない、長時間連続乗車(訓練・作戦で6~12時間以上)の複合要因を挙げます。

 欧州の労働環境基準で民間重機なら即刻使用禁止になるレベルです。イギリス議会でも「兵士を実験台にした人権問題」とまで指摘されており、単なる技術問題ではなく、職業性災害・人権問題になっています。当然、現場部隊の士気にも悪影響を与えています。

 退役軍人、現役兵士が国防省に補償請求を行う動きも活発化し、国防省も2024年7月以降、一部の聴覚障害について責任を認める姿勢を示しています。また一方で、この補償制度を悪用した偽広告が問題化しています。国防省の公式プログラムと誤解させる内容で「最大15万ポンドの補償が受けられる」と宣伝するような詐欺広告で、被害が拡大しつつあるとされます。

 エイジャックスの技術的追求は別稿に譲りますが、陸軍が過大な要求仕様を詰め込み過ぎたことと、メーカーは定額契約であり先行投資をしていることから、収益性を懸念して根本的な設計見直しには消極的でプログラムの硬直性が指摘されています。「事実上の失敗作にもかかわらず、代替できないので進めるしかない」「だから失敗は認めない」という状況です。

 陸軍もメーカーも責任を押し付け合い、対策は座席にゴムパッドを挟む、耳栓の改良のような小手先の内容に終始しました。挙句の果て、退役軍人によって戦闘用武器耳栓バージョン2(CAEv2、国防省向けに製造・供給された軽量の耳栓)のメーカーである3M社に損害賠償訴訟まで起こされる有り様です。

 国防省は11月14日、「エイジャックスプログラム」は「プロジェクト遂行の優秀性が認められ」「グローバル・プロジェクト・コントロールズ・アワード」を受賞したと発表していました。この賞は「プロジェクト管理」を扱う国際的なイベントで、複雑で多くの関係者が絡む巨大プロジェクトを、透明性・効率性・管理体制を持って成功に導いたかを評価するものです。

 しかし11月26日には騒音と振動問題で運用停止。問題は全然解決していないことが明らかになってしまいます。「安全宣言」をして恥をかく形となったポラード大臣は、「システムは安全だと国防省の高官に書面で保証を得ていた」といら立ちを示す声明を出しました。とんだ茶番ですが、一番不幸なのはイギリスの兵士と納税者です。

【写真】40mm機関砲を射撃するエイジャックス

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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