「中国が9割を握る重要素材」を国産化へ 目指すは“深海” 驚きの次世代探査システムも“ぜんぶ国産開発”その最前線とは?

中国が9割のシェアを握り、関係次第で安定供給への大きなリスクが生じるレアアース。その国産化に向け、AUV(自律型無人探査機)を用いた次世代の深海調査システムの開発が進行中。海だけでなく「空のマシン」も作って深海に挑みます。

洋上風力発電の“番人”にもなるAUV

 深海の調査以外に、深海ターミナルとAUVが活躍するのが洋上風力発電設備の保守・点検の現場です。将来的に大量の風車の設置が見込まれている洋上風力発電において、タワーの基部や浮体といった海中部分を点検するには、人手も船も足りません。

 藤原氏は、「発電所には電気が豊富にある」という点に着目しています。洋上風力発電の設備に深海ターミナルを接続しておけば、AUVはそこを拠点に常駐できます。

 例えば「3日に1回見てこい」と指示を出せば、AUVが自動で施設周りを巡回・撮影し、取得したデータをターミナル経由で陸上へ送信する、そんな完全無人化された点検システムの構築が可能になります。これにより、点検のために船を出し、ダイバーやROVを手配するコストと手間が削減できます。

「空飛ぶ母船」も開発中!?

「私たちの目指すところの一つとして、国産の商用AUV開発があります」と藤原氏は語ります。

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新明和工業の無人飛行艇「XU-M II」。2025年10月に“初飛行”に成功している(画像:新明和工業)

 現在、世界のAUV市場は欧米が先行しています。特に欧米製品は、量産効果により安価で、「使い捨て感覚」の運用ができる手軽さが強みです。一方、中国も国家の威信をかけて深海探査技術への投資を行っており、ドローン市場のように圧倒的なシェアとコスト競争力を持つ製品が登場する可能性があります。

 しかし、海外製に依存することにはデータの流出や、ランニングコストの増加といった落とし穴があります。

「海外の代理店経由でAUVの調達や修理をすると、時間も手間も費用がかかります。アフターサービスも含めて、国内に基幹産業があって、すぐ修理ができて、メンテナンスもできれば、経済安全保障という観点からもメリットは大きいのです」(藤原氏)

 また、海技研はAUVを搭載する「無人飛行艇」開発のプロジェクトにも参画しています。これは中央部に自動投入揚収装置を設けた無人飛行艇が現場海域まで飛び、着水して腹部からAUVを放出、調査後に再び回収して帰還するというもの。いわば「空飛ぶ母船」です。

 このプロジェクトは科学技術振興機構(JST)の「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」の一環として、JAMSTECや新明和工業、いであと共に実施。この「海空無人機」と大水深で定点調査が可能な「深深度AUV」も同時に開発することで、低速な船舶での移動時間を大幅に短縮し、迅速な調査が可能になります。

 藤原氏は「民間企業が使えるようになれば、プロジェクトとしては大成功です」と話します。日本が培ってきた深海探査技術と現代にふさわしいロボット技術を組み合わせ、世界に通じる低コストのAUVシステム構築に向けて着実に技術開発が進んでいます。

【なるほど!】これが「深海の“置くだけ充電”システム」です(画像)

Writer:

1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。

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