「お巡りさん違うんです!!」 駅のベンチで寝転がるも“不審者にあらず”!? 令和乗り鉄が知らない「駅寝」の世界
ホテルは高価で、お小遣いも少なかった若者たちは、雨風をしのげる場所ならどこでも良かった……その結果として生まれたのが「駅寝」です。かつてはそのためのガイドブックまで登場したものの、現在そのような光景を見かけることはほぼありません。
乗り鉄の「駅寝」と山男の「STB」
ところで、駅寝のルーツは登山客という説があります。早朝から山に登るため、登山口の近くの駅に泊まりました。谷川岳登山口がある土合駅は駅寝の名所だったとのこと。彼ら山男たちは登山装備として寝袋を持参しています。登山中の野宿を「ビバーク(bivouac)」といいますが、彼らは駅寝を「STB(ステーションビバーク)」と呼びました。この「STB」が乗り鉄にも広まったのです。
仕方なく「STB」したことから、その独特の雰囲気を楽しみ、やがてSTBのために旅をする人も現れました。おカネがないという理由よりも、夜中に貨物列車が通過する雰囲気が好きな人、駅という旅の空間の中で目覚める喜びのほうが大きいようです。駅のそばに宿泊施設があっても駅で寝る人や、放浪癖があって宿泊施設が肌に合わない人もいるとか。
やがて、山男や乗り鉄だけではなく、サイクリング、バイクツーリングの愛好家にもSTBが広まったそうです。元々野宿が好きで、季候の良い日なら公園のベンチや芝生で寝るけれど、悪天候なら駅や寺の軒下、オールナイト営業の映画館にも泊まる人たちなど、STB愛好家も様々だったようです。
STB愛好家は口コミで情報を交換してきました。雑誌などの掲載や紹介があったかもしれませんが、STBの流行は全国に無人駅が増えた1980年代で、1980年代半ばにはパソコン通信が普及し始めましたから、情報交換は容易だったかもしれません。
そしてなんと1987(昭和62)年には初心者向けのガイドブックも出版されました。「STB(ステビー)のすすめ」です。
鉄道路線ごとに泊まれる駅と泊まれない駅を分類し、泊まれる駅は椅子の種類、トイレの場所やと使用の可否など詳しく記載されています。いくつかの駅では食堂や入浴施設などの情報もあります。すべての駅が体験に基づいており、親切な人や店に出会った話、残念だった体験談がみっちりと詰まっていました。
編者はSTB全国友の会、印刷・発行は「どらねこ工房」です。初版は「北海道・信州」の駅を収録し、1988(昭和63)年には第2版が発行。1994(平成6)年に全国版の初版、1995(平成7)年に増補・全国版が出版されました。定価は1500円で、あとがきによるとSTB全国友の会の会員数は公称153人・実働30人、年に1回の集会と会報を発行していたようです。





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