「お巡りさん違うんです!!」 駅のベンチで寝転がるも“不審者にあらず”!? 令和乗り鉄が知らない「駅寝」の世界
ホテルは高価で、お小遣いも少なかった若者たちは、雨風をしのげる場所ならどこでも良かった……その結果として生まれたのが「駅寝」です。かつてはそのためのガイドブックまで登場したものの、現在そのような光景を見かけることはほぼありません。
これはケチケチ旅行にあらず! 崇高な趣味としての駅寝
「増補・全国版」の第一章「STBの手引き」によると、「そもそもわれわれのステビーは、ケチケチ旅行が目的なのではなく、(中略)大自然の中の無人駅で朝を迎えようというワイルド・ロマンチシズムなのだ(略)」とあります。ここに、STBが貧乏旅行の手段ではなく、崇高な趣味であることが宣言されています。
また、本章ではさらに「STB憲章」として、「われわれは旅を愛し、旅の原点の〈ビバーク〉を愛する」「駅泊を旨とするが、宿の義理は欠かさないつもりだ。最終列車が出るまで寝ない・駅舎内で火は使わない・始発列車が入るまでに去る・ゴミはきちんとかたづける」「人との〈出会い〉を大切にする」を定めています。マナーを守って駅寝を楽しみましょうと呼びかけていたわけですね。こうして駅寝は手段から目的へ、そして文化へと昇華したようです。
そんな駅寝ですが、最近の乗り鉄界隈で体験談を聞かなくなりました。あの頃に比べると、今は安価で快適に夜明かしできる場所が増えました。ビジネスホテルチェーンが増えました。そのホテルも値上がりしていますが、もっと安価に泊まれるネットカフェやカラオケボックスなどがあります。「仕方なく駅で寝る」という必要がなくなったかもしれません。
「ワイルド・ロマンチシズム」な人々にとっても、向かい風が吹いていると思われます。社会の不寛容によって、夜中に駅にいる人は不審者扱いになってしまいがちです。無人駅にも監視カメラがあって、不法滞在者を発見すると、警備員や警官が来ます。駅寝のつもりが留置場になってしまいます。人里に熊が降りて来る時代です。駅にいても襲われてしまうかもしれません。「STB全国友の会」はSNSの発信が2011年で止まっており、ネット掲示板のみ運用されているようです。
私にとって美深駅の夜は良い経験だったと思います。しかしもう一度やりたいと思いませんし、未経験者にオススメしません。令和の乗り鉄には知らなくていい世界かもしれません。
Writer: 杉山淳一(鉄道ライター)
乗り鉄。書き鉄。ゲーム鉄。某出版社でゲーム雑誌の広告営業職を経て独立。PCカタログ制作、PC関連雑誌デスクを経験したのち、ネットメディアなどで鉄道関係のニュース、コラムを執筆。国内の鉄道路線踏破率は93パーセント。著書に『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。日本全国列車旅、達人のとっておき33選』(幻冬舎刊)など。





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