「客船の出入港でチョコマカ動く小さな船、邪魔じゃないの?」まさに“縁の下の力持ち”必要不可欠なワケ

港で巨大なコンテナ船やタンカーを巧みに誘導するタグボート。全長30mほどの小さな船体が、なぜ自分より何倍も大きな船を動かせるのでしょうか。港の安全と効率を支える「縁の下の力持ち」のその秘密は何でしょうか。

巨大船は港内が苦手

 全長400mにも達する現代の大型船は、一度に大量の貨物を運べる一方、港の中では極めて扱いにくい存在です。

Large 20251231 01

拡大画像

フェリーとタグボート(画像:写真AC)

 その巨大な質量ゆえの慣性(動き出したら止まりにくく、停止した状態からは動き出し難い性質)と、低速での操縦性の悪さが大きな弱点となります。

 船の向きを変える舵(かじ)は、プロペラが回って水流が当たらないと効きません。岸壁に近づくための超低速航行や、停止に近い状態では舵の効きが著しく低下し、風や潮流の影響をまともに受けます。

 ゆえに、巨大な船体を真横に動かしたり、狭い場所で方向転換したりするといった“繊細な動き”は苦手です。

 この大型船の弱点を補い、港内での安全かつ効率的な離着岸を実現するのが、タグボートの最も重要な役割です。タグボートは日本語では「曳船(えいせん)」といい、その強力なパワーと卓越した機動性で、大型船が自力ではできない精密な操船を代行・補助します。

 タグボートが「小さいのに力持ち」なのは、船体のサイズに比べて不釣り合いなほど強力なエンジンを搭載しているからです。

 日本の港で活躍する代表的なタグボート(4000馬力級など)は、全長30~35mほどです。船体サイズはそれほど大きくありませんが、船内の多くのスペースを巨大なエンジンと燃料タンクが占めていますただ、船の構造上スピードではなくパワーに振った造りのため、速度は遅いです。

 巨大な船を押したり引いたりするのに特化した作りゆえに、タググボートには専用の能力指標が設けられています。代表的なものが、「ボラードプル」、すなわち静止曳航力です。これは停止した状態での引っ張る力(押す力)を示し、国際的には「kN」で定義されます。

 ちなみに、国内の事業者が公表するスペックでは「曳航力(t)」表記も多く、出力4000馬力級で50t台の例が確認できます。

 なお、ボラードプルは、静止曳航力試験で得られた“最大連続値”として文書化され、IMO(国際海事機関)のガイドライン等に基づく試験・確認の枠組みの中で示されます。

【写真で見る】前後左右がわからん!?「真ん丸すぎる船」喫水線下はさらに異質?

最新記事

コメント