「客船の出入港でチョコマカ動く小さな船、邪魔じゃないの?」まさに“縁の下の力持ち”必要不可欠なワケ
港で巨大なコンテナ船やタンカーを巧みに誘導するタグボート。全長30mほどの小さな船体が、なぜ自分より何倍も大きな船を動かせるのでしょうか。港の安全と効率を支える「縁の下の力持ち」のその秘密は何でしょうか。
カニのように動く驚異の機動力どうやってる?
タグボートのもう1つの特徴が、驚異的な機動性を生み出す特殊な推進システムです。
現代の多くのタグボートは、一般的な「プロペラ+舵」の組み合わせではなく、推進器自体が360度水平方向に回転する「アジマススラスター」(Zドライブ〈Zペラ〉やポッド推進器)や、複数の垂直翼の角度を変えて推力と方向を制御する「フォイト・シュナイダー・プロペラ(VSP)」といった装置を搭載しています。
これらの推進器により、タグボートは舵なしで、その場での360度旋回や、船の向きを変えずに真横への移動(いわゆるカニ歩き)が可能です。
この能力によって、タグボートは自慢のパワー(ボラードプル)を前後だけでなく真横や斜めなど、あらゆる方向へ瞬時に向けることができます。
実作業では、タグボートは船首の分厚い防舷材(フェンダー)を大型船の側面に当てて「押す」、あるいは太い係船索(タグライン)で「引く」という動作が基本です。
なお、むやみに押すのではなく、大型船の船体のうち、タグボートが押しても大丈夫なように補強された場所(プッシュポイント)を正確に押す必要があります。
ここで求められるのは、まさに職人技です。
港では大型船の船長や水先人(パイロット)が乗船し、無線で複数のタグボートに「右へ半分の力で押して」「左一杯で引いて」などの精密な指示を出します。各タグボートの船長は、その指示に従い、特殊推進器を巧みに操って要求された力を正確に提供します。
強力なエンジンが生み出す「パワー」、それを自在に向ける「機動力」、そして水先人とタグボート船長たちの「連携技術」。この3つが一体となることで、港の安全と効率は支えられています。
ちなみに、タグボートも近年はハイブリッド化やLNG(液化天然ガス)、さらには温室効果ガスの大幅削減が期待されるアンモニア燃料の採用など、環境性能と安全性の両立に向けた取り組みが進んでいます。地味ながらも不可欠な存在であるタグボートも、進化し続けているのです。





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