電車の本数、なぜ「朝ラッシュ時だけ」戻らないのか? “コロナ後”も増やしにくい二つの制約

コロナ禍で減便された鉄道は、その後の利用者数の回復にあわせて増便する動きも出てきましたが、朝ラッシュ時間帯の本数はなかなか元に戻りません。そこには車両や乗務員の運用といった鉄道ならではの事情がありました。

朝の増便を阻む「二つの制約」

 日中や土休日の本数が回復する一方、平日朝ラッシュの本数は元に戻るのでしょうか。そこには「車両」と「乗務員」という制約があります。

 列車の運行に必要な車両は、運行本数が最も多い朝ラッシュ時間帯に必要な数を揃えるのが基本です。しかし、その多くはラッシュ時間帯しか使用しない非効率な資産でもあります。銀座線は1時間あたりの最大本数を30本から25本に削減したことで、平日に必要な編成数(車両運用数)が4本も減少しました。1編成あたり10~30億円もする車両が不要になれば、事業の効率化につながります。

 現在使用している車両をすぐに処分するわけではありませんが、車両の更新に合わせて導入数を減らしたり、余剰分を他路線に転用したり(銀座線では不可能)して、徐々に車両数を減らしていきます。

 また、JRや私鉄で整備が進むホームドアは、設置すると駅での停車時間が増加し、全体の所要時間も増えます。これに対応するには車両を増備する必要がありますが、そこに余剰車両を充てることができます。予備車が増えることで、車両改造を効率的に進められるメリットもあります。

 一度車両を削減すると、増便は困難になります。しかし、働き方改革が定着する中で、朝ラッシュの混雑がコロナ禍前の水準に戻ったり、日中の運行本数がラッシュ時間帯を上回ったりするとは考えにくいため、これ自体が増便の足かせになることは少ないと考えられます。

 乗務員も同様に、最も人手が必要な朝ラッシュを基準に配置されます。ただし、乗務員は定年退職と新規養成によって、車両よりも早いサイクルで人員が変動します。

 コロナ禍から6年、本格的な減便が始まってから4年が経過し、減便を前提とした乗務員の養成が進んでいます。特に運転士の養成には時間と費用がかかり、免許を取得しても働き場所がないと困るため、要員数をコントロールしなければなりません。

 また、ホームドア設置に伴いワンマン運転化する路線も増えています。乗務員の総数が減少すれば、朝ラッシュ時間帯の本数を元に戻すのは困難です。これに対して、日中の増便は乗務員のシフト調整で対応できるため、比較的容易です。

 2023年以降、コロナ禍で削減した列車を復活させる動きが出てきましたが、その多くは日中や夕夜間が対象です。前述のように定期利用が低迷する中、定期外利用はコロナ禍前を上回っており、定期外利用が中心となる日中と夕方の需要増に対応する必要があるからです。今後もその流れは変わらないでしょう。

【コロナ禍前後】銀座線の運行本数と輸送人員の推移を見る(グラフ)

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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