空自C-2輸送機、難産のワケ 約2年遅れた配備開始、これが航空開発の「通過儀礼」?(画像12枚)

川崎重工が開発していた新型輸送機C-2の、航空自衛隊への配備が2017年3月末より始まりました。ところがここに至るまで、相当の難産だったといいます。

川崎重工C-2、開発完了し配備開始

 2017年3月27日(月)、かねてより開発中であった国産新型輸送機、川崎重工C-2が開発完了に至り航空自衛隊へと配備が開始されました。3月30日(木)には美保基地(鳥取県)に駐留する第3輸送航空隊 第403飛行隊において初度配備記念行事が執り行われ、今後ようやくにして実用機として活動し始めることになります。

Large 170413 c2 01
2016年11月の岐阜基地航空祭当日、「偶然にも」試験飛行したC-2初号機。心憎い演出によって新しい胴体に生まれ変わった姿を披露した(関 賢太郎撮影)。

 C-2は本来ならば2014年には開発を完了し、遅くとも2015年3月には美保基地へと配備される予定でした。ところがスケジュールは数度にわたり大きく遅延、当初予定から大きく遅れ、その誕生は「難産」とも言えるものでした。

 C-2が難産であった最大の理由の一つは、たびたび発生した「機体構造の強度不足」にあると言えます。当初XC-2と呼称した試験型C-2初号機は、川崎重工の工場が所在する航空自衛隊岐阜基地において2010(平成22)年1月30日に初飛行を成功裏に実施しました。しかしながら初飛行に先立つ初号機組み立て時において結合部品の強度不足が判明、これは代替部品への交換ないし補強によって解消することになりますが、当初2007(平成19)年夏ごろを見込んでいた初飛行は2年半ほど遅延してしまいます。

度重なるスケジュール遅延の理由とは?

 C-2の開発には、その後も強度不足が常について回ります。2012(平成24)年には試験の進捗により蓄積されたデータなどを踏まえて強度の再計算を行った結果、構造上補強を要する部位を複数確認、これを受け所要の措置を施すため、開発期間を1年間延長する必要が生じました。

 さらに2014年には、高高度を飛行するために必要な機内の「与圧」を、設計時の1.2倍の荷重をかけた地上試験において、貨物扉、後部胴体等が物理的に損壊するという不具合が発生します。破損したのは初号機ではなく「不具合を洗い出すために最終的には破壊するまで圧力をかけるために作られた地上試験機」ですから、ある意味では役割を全うしたともいえますが、本来は設計上の1.5倍の荷重に耐える必要があるため、これによりさらに2年の遅延が生じてしまいます。

 想定外だった強度上の問題を補強によって改善することは比較的容易ですが、それには当然ながら重量増という副作用がともないます。しかしながら設計上の「最大離陸重量」は容易に変更することができないので、貨物並びに燃料の最大搭載量を制限し、結果として輸送機としてのスペックを減じなくてはなりません。

 そのため一時期は「XC-2は要求性能を達成できないのではないか」という見方もありました。ただしこれらの問題は再設計された量産型C-2の胴体においてクリアされており、試験機である初号機や二号機も、補強された胴体から量産型の新しい胴体へと完全に取り換えることで対応しています。

航空機開発の世界では、難産は想定の範疇?

 C-2は海上自衛隊の川崎P-1哨戒機と同時に開発され、両機の一部を共通化することによって製造費ならびに開発費を圧縮する狙いがありました。しかしながら両機あわせて約3400億円と見積もられていた開発費は、度重なる遅延によって両機ともに約2500億円ずつ、合計5000億円にまで膨らんでしまっています。

Large 170413 c2 02 Large 170413 c2 03 Large 170413 c2 04
川崎重工C-2輸送機の主要諸元。
C-2と同クラスのエアバスA400M輸送機、エアショーでの驚異の機動(関 賢太郎撮影)。
C-2の先代にあたる川崎重工C-1輸送機(画像:航空自衛隊)。

 ただ新しい航空機を開発するうえで、スケジュール遅延と開発費の大幅超過はありとあらゆる機種において生じており、古今東西、世界中あらゆる航空機を見てもむしろ予定通りすんなり開発された機種のほうが稀有であるとさえ言えます。事実、旅客機メーカー最大手であるエアバス社の軍事部門エアバスディフェンスアンドスペースが開発した、C-2とほぼ同クラスの輸送機であるA400Mでも、重量超過などの問題から遅延と開発費超過が生じています。

 そのため、好意的に言うならば、C-2の開発にともないたびたび生じた強度問題は、航空機という極めて複雑なシステムを成熟させるうえでの通過儀礼であったとみなすこともできるでしょう。

【了】

この記事の画像をもっと見る(12枚)

Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

最新記事

コメント

Leave a Reply to 元業界のひと Cancel reply

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

4件のコメント

  1. 破壊圧力試験で基準に満たなかったのではなく、保証圧試験で破壊してしまったことが問題なのです。世界レベルの航空機開発ではありえない程度の低さでしょう。さらに、日本が自信を持っていた数値計算での強度解析で「大失敗」したことは重いでしょう。

  2. 失敗を失敗と断じるのは簡単ですが、次に繋げることを期待したいですね。

  3. 遅れで開発費が増えるツケは税金なのだが、それを通過儀礼と書ける感覚がわからん。

  4. 今度はステアリングとブレーキ破壊。致命的欠陥。墜落する前に全機廃棄せよ。代替機?KC-46で充分!