アクロバット飛行は「巨漢力士との戦い」? 体験して身に染みた機内の過酷さと魅力
飛行機が華麗に大空を舞い踊る「アクロバット飛行」ですが、そのコックピットは、体験してみなくてはわからない非日常世界が広がっていました。
高度約3000フィートの「フィギュアスケート」
「次は8Gまで掛けますが大丈夫ですか」
「はい大丈夫です。お願いします」
窓など存在しない、すべてをクリアに見渡すことが可能なキャノピーから見える風景が猛烈に天地逆転し、強烈なGに押し付けられるという未曽有の経験は、私(関 賢太郎:航空軍事評論家)の三半規管をほんのわずかな時間で機能不全に追い込みました。私はまったく大丈夫ではない吐き気によるむかつきを自覚しつつ、曲技飛行すなわちアクロバット飛行を体験できるという機会にワクワクしていたつい先ほどまでの自分を呪いながら、インターコムの送信ボタンを押してやせ我慢の嘘をつきました。
2017年9月24日(日)午前11時、私は日本において活躍する数少ない競技曲技飛行チーム「ウイスキーパパ」を主宰する操縦士、内海昌浩さんの招きを受け、瀬戸内海上CS3民間飛行訓練空域、高度約3000フィート(1000m)上空において高性能曲技飛行専用機であるエクストラEA-300Lの機上にありました。
「競技曲技飛行」とは「空中をスケートリンクとしたフィギュアスケート」とたとえられることがあります。内海さんは曲技飛行競技世界選手権の日本代表として出場、好成績を収めた実績もある日本屈指の実力者であり、またその愛機であるエクストラEA-300Lは最高速度440km/h、旋回時における遠心力は「プラス・マイナス10G」以内という破格の荷重に耐える、世界最高の曲技飛行機のひとつです。単純にG制限だけで比較するならば、航空自衛隊のブルーインパルスで使用されるT-4の7G、そしてF-2A、F-35Aといった最新鋭戦闘機でさえ9Gであり、EA-300Lはこれらを凌駕します。
急旋回によって生じる高いGは当然、機体だけではなく人間をも襲います。高いGが継続して身体に掛かり続けるという感覚は、「自分の体の上に巨漢力士がのし掛かる」という状況をイメージしていただければほぼ正解に再現できます。腕も足も首も上半身も容赦なく椅子へ押し付けられ、体の自由が失われます。
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