【鉄路の脇道】一筆書きで帰省する 行きと帰りで経路を変えるメリット

通常の旅行は出発地と目的地を往復するもの。しかし「一筆書きのようにぐるりと一周しながら本来の目的地に立ち寄るルートなら、出発地と目的地が同じになることもあります。北陸新幹線の開業を機に「一筆書き」のルートに目覚めた筆者が語ります。

きっかけは北陸新幹線の金沢開業

 私事ですが、実家が福井にあります。変な遠回りをせずにまっすぐ帰るときは、東海道新幹線で米原に出て、米原から特急「しらさぎ」で福井着というルートを選んでいます。

Large 180918 hitohudegaki 01
2015年に開業した北陸新幹線。福井への新たな帰省になった(2015年4月、草町義和撮影)。

 このルートの素晴らしいところは、おもにふたつあります。ひとつ目は、米原に停車する「ひかり」がおおむね1時間に1本あること。そしてふたつ目が、米原では「ひかり」が「しらさぎ」に必ず接続するということです。

 つまり、往年のL特急を思わせるようなパターンダイヤで実家に帰れてしまうわけです。私に決断を求められるのは「何時の『ひかり』に乗るか」だけ。このシンプルさゆえに、遠回りしたくなるのかもしれませんが。

 そんな帰省ライフ、あるとき選択肢が生まれました。2015年3月、北陸新幹線の長野~金沢間延伸開業です。金沢まで北陸新幹線で移動し、そこから特急「しらさぎ」、あるいは「サンダーバード」で福井にアプローチすることが可能になりました。とはいえ開業直前の私はといえば、「思い出の北陸本線が、三セクになってしまうなんて……」と、わくわくするよりも枕を濡らすような日々を過ごしていました。

「一筆書き帰省」の誕生

 しかし、泣いてばかりもいられません。新規路線開業に伴って「JR全線完乗」のタイトル返上と相成ってしまったからです。

「未乗区間があるのは嫌だ」

 薄情にも開業から1週間後の2015年3月21日、私は東京駅の新幹線ホームで、嬉々として北陸新幹線「かがやき」を待っていました。帰省という名目でJR全線完乗の「更新作業」を行うためです。手には「かがやき」の特急券、そして乗車券がありました。

Large 180918 hitohudegaki 02
東京都区内→東京都区内の乗車券。北陸新幹線と北陸本線、東海道新幹線を一周して戻るルートだ。

 ただし、乗車券の目的地は福井ではなく東京都区内。東京都区内発~東京都区内着の「一筆書ききっぷ」を所持していました。往路は北陸新幹線経由で帰省し、復路は米原から東海道新幹線というルートにしようという魂胆です。もちろん、両新幹線の乗り比べという楽しみもありましたが、出発地が東京都区内なのに目的地も東京都区内という、「謎のきっぷ」を発券したいという欲望の方が大きかったのです。

 ちなみにこの乗車券、わざわざ窓口に行かずとも自動券売機でたやすく発見できます。方法は「東京から、北陸新幹線で金沢に行き、金沢で特急「しらさぎ」に乗り換えて米原で下車し、そこから品川まで東海道新幹線に乗る」と券売機上で選択していくもの。おミソは、発駅、着駅をそれぞれ東京、品川と異なる駅にすることです。

 制度上は東京も品川も「都区内」になるので、結果的に乗車券は「都区内発都区内着」になります。どうぞ皆さん奮ってお試しくださいませ。なおこの場合、「実務上」の目的地である福井駅は途中下車の扱いになります。

 こうして意気揚々としていたわけですが、ホーム上ではちょっとした違和を覚えました。福井に帰るのに、東北方面や新潟方面に向かう人と同じホームにいること。そして、ここから乗り込んだ列車が2時間半後には金沢駅にいるということ。いまでこそ体になじんでいますが、最初は不思議な気持ちでした。

 さて、興奮と戸惑いとともに乗り込んだ「かがやき」の車内は満席でした。「開業から間もないし!」とミーハー根性を丸出しにしていたところ、長野駅でほとんどのお客さんが下車しました。そんなもんですね。

「かがやき」といえば、北陸新幹線では速達型に分類され、長野の次の停車駅は、富山。長野の先に富山があるなんて……。路線図や地図を見れば頭では理解できるものの、やっぱりふに落ちません。

「もしかして、私の知っている富山や金沢とは違うところなのではないだろうか」「パラレルワールドに来てしまったのではないだろうか」などと、疑問の言葉を精製しているうちに、列車は長いトンネル区間を経て、やがて平野部を走り始めます。ふと、窓の外を見た時でした。北陸ではおなじみのクリーニングチェーン店「ヤングドライ」の看板が見えたのです。

「あ、あのアヒルのキャラクター! 間違いない、ここはやっぱり私の知ってる北陸だ!」

 当たり前にありすぎてなんとも思わない地元チェーン店ですが、地元を離れた今となっては「帰ってきた」のひとつの目安になるものですね。こうしてヤングドライのお陰でここがパラレルワールドでもなんでもないことを実感しているうちに、終点の金沢に到着しました。2時間半、拍子抜けするほどあっという間でした。

残り2992文字

この続きは有料会員登録をすると読むことができます。

2週間無料で登録する

Writer: 蜂谷あす美(旅の文筆家)

1988年、福井県出身。慶應義塾大学商学部卒業。出版社勤務を経て現在に至る。2015年1月にJR全線完乗。鉄道と旅と牛乳を中心とした随筆、紀行文で活躍。神奈川県在住。

関連記事

最新記事