九州の高速バス事情 圧倒的本数の「高速バス王国」、観光地路線も盛況 競争さらに激化

増発重ねる観光地への昼行便 乗り放題パスも後押し

「フェニックス族」現象に象徴されるように、これらの路線はこれまで主に「九州各県から福岡への足」として利用されてきました。しかし、近年、一部の路線でFIT(訪日外国人のうち、貸切バスを使う団体ツアーではなく、個人自由旅行をする人)の利用が急増しているのです。

 九州は、もともと地理的に近い韓国や台湾から気軽に訪日旅行を楽しむ人が多いこと、九州内の高速バスや路線バスにほぼ乗り放題となる「SUNQパス」が2005(平成17)年に発売され、いまや海外へも積極的にセールスされていることが主な背景です。「SUNQパス」は年間約25万枚が発売されていますが、その9割は海外での販売です(2017年度)。この数字は、主に、事務局を務める西鉄のセールス部隊の成果と言えます。

 また、黒川温泉、湯布院温泉、高千穂などFITに人気の目的地へは、いずれも鉄道より高速バスのほうが便利である点も、高速バスが選ばれている理由として挙げられるでしょう。2015年まで11往復であった福岡~湯布院線は、ダイヤ改正を繰り返し現在では23往復に増便されましたが、平日でも満席状態が続いています。2018年12月からは、日田~湯布院線が開業したほか、1日2往復まで減少していた九州横断バス(熊本~黒川温泉~湯布院~別府)も、久々の増便を行い熊本~湯布院で3往復となります。

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日田~湯布院線の運行開始案内。韓国語版も用意されている(成定竜一撮影)。

 それでも、九州における高速バス利用の中心が、地元在住のリピーターによる「九州各県から福岡への足」であることに変わりはありません。ところが、競合する鉄道(JR九州)は、株式上場を果たすなど業績拡大に熱心な企業です。九州新幹線開通や豪華列車「ななつ星in九州」の派手さの裏で目立ちませんが、レベニュー・マネジメント(ITを活用し需要に応じて曜日や時間帯で細かく価格を変動させて収益最大化を目指す手法。イールド・マネジメントとも)の概念を取り入れ、ウェブ予約限定で多様な割引運賃を設定しています。

 高速バスと鉄道の競合が激しい九州では、もともと両者が「増発合戦」を繰り広げ、便数が過剰となったぶん、乗車率が低めの傾向にあります。双方でむやみな値下げ合戦に走るのではなく、運行ダイヤの最適化やレベニュー・マネジメント導入による精緻な運賃コントロールによって、収益性を高める努力が必要です。

 また、高速バス先進地域であったぶん、逆に、全国と比べて九州内路線では若干遅れている分野もあります。たとえば「パーク&ライド(高速バス停周辺の駐車場にクルマを停め、高速バスに乗り換える)」の環境が全国水準と比べても低いと言えますし、需要に応じ柔軟に続行便(臨時増便)を設定する態勢は、たとえば中央高速バス(新宿~山梨、長野方面)に比べて遅れています。それらの弱点を克服して収益性を高め、その収益をさらにリピーター囲い込みや観光客の増加に再投資し続けることができれば、「高速バス王国」の称号を守り続けることができるはずです。

【了】

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Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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コメント

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1件のコメント

  1. それより何より、問題なのは運転士不足。
    運転士がいなければバスは運行できない。