高齢者免許返納の壁に「バスの乗り方わからない」 何十年も不使用 対策あの手この手

「免許返納には公共交通の充実を」の前にすべきこと

 高齢者向けの「乗り方教室」が行われる背景には、高齢者による自動車事故の増加があります。運転に不安のある高齢者が自家用車に頼らなくても移動できる環境をつくるべく、国や自治体が公共交通の運賃助成、路線やダイヤの整備を進めるなどして、運転免許の自主返納をサポートしていますが、なかには「最後に路線バスに乗ったのは子どものころ」という高齢者も。数十年ぶりに乗車するとなると不安になり、抵抗を感じる人もいるようです。

 2018年に市内循環バスの乗り方教室を行った鳥取県境港市によると、教室を通じてまず交通機関を体験してもらうことが、「自家用車から公共交通へ」の流れにつながり、高齢者の免許返納の増加にも寄与していると話します。教室で配布する無料乗車券の利用状況も順調で、参加者からは、「鉄道とバスの接続がよくない」「運行系統ごとにバスを色分けすればわかりやすいのでは」など、積極的な意見も寄せられるようになったといいます。

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福島交通のバスの乗り方教室。近年導入したICカードの使い方を知ってもらう意味合いも大きい(画像:福島交通)。

 一方、東海地方のある市では、高齢者へ向けた大規模な公共交通の運賃助成で免許返納が急増し、「公共交通への転換」にある程度成功したものの、実際にはさまざまな問題が出ています。バスに不慣れな人の利用が増加し、運行に影響を与えるケースもあるのです。現地の運転手さんによると、慣れない人は自分が乗るべきバスや乗車方法がわからず、走行中も車内で歩き回ることもあり、その都度ていねいに乗車方法や車内マナーを説明するなど、気の抜けない状況が長らく続いたといいます。

 警察庁が75歳以上で運転免許を更新した人、自主返納した人それぞれに向けて行ったアンケートでは、7割の人が、返納のために交通機関の発達とその支援が必要と答えています。しかし、運賃助成や路線の新設・増発などを進めたとしても、乗ってもらわなければ意味がありません。公共交通に親しんでいなかった人に、まず体験してもらい、馴染んでもらうことは、すべての利用者にとって重要なことではないでしょうか。

【了】

【グラフ】高齢者の免許返納件数の推移

Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)

香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。

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