【空から撮った鉄道】オメガカーブと多くのカーブでクネクネ曲がる 北海道の雄大な狩勝峠を撮る
前回は山深い大井川鐵道井川線を紹介しましたが、今回は北海道の雄大な山間部、大地に線路が大きな弧を描く狩勝峠を紹介します。
『空鉄』本制作のため、二ヶ所目の日本三大車窓として選択
札幌から東へ進み夕張山地を過ぎると、石狩山地と日高山脈の山々にぶち当たります。標高1000m級の尾根が続くなか、一段と低い標高600~700mの辺りに狩勝峠があります。場所は、北海道のだいたい真ん中より下と行ったところでしょうか。「狩勝」という名は明治時代に根室本線敷設のため調査した際、旧国名の石狩国と十勝国の二文字を取って命名されました。いわば、鉄道が由来の峠です。
国道の狩勝峠付近には、森に還った廃線跡があります。これは根室本線の旧線でして、当時の線路は勾配や急曲線の連続する難所でした。その代わり眺望は素晴らしく、十勝平野が一望でき、日本三大車窓のひとつとして乗客たちを喜ばせていました(他の2箇所は、篠ノ井線姨捨と肥薩線矢岳付近)。
線路が付け替えられたのは1966(昭和41)年のこと。旧線より南側に線路を敷設することとなり、新線は新狩勝トンネル内で二股に分岐して、根室本線と石勝線に繋がっています。しかし2016(平成28)年に発生した台風被害により、根室本線の富良野~落合間が運休のまま3年が経過してしまい、滝川から根室本線で狩勝峠を越えることができません。現在も復旧か部分廃止か協議の真っ最中という状況です。
2013(平成25)年の春。講談社刊行の『空鉄』が好評で、2冊目を出すことになり、編集氏と取り上げる箇所を選定しました。その編集会議では、
編集氏「1冊目で、日本三大車窓のひとつ矢岳を取り上げたから、ここはぜひ狩勝峠はどうだろう?」
私「旧線は痕跡しか見えないだろうけど、新線のダイナミックな線形は紹介したいですね。」
と、軽い感じで空撮することになりました。このときはまだ締め切りに追われそうになって焦るとは思いもしませんでした。
初夏のシーズンはこちらが業務で多忙のため、狩勝峠が晴れていたとしても、とても渡道できる状況ではありません。夏になり「そろそろかな」と思って、天気をチェックしていると、あまり良くないのです。現地の情報を聞いても、山地だから雲がよく発生するとのこと。12月の発刊から逆算すると、撮影のデッドラインは9月末。でも、こちらが撮れる日程だと狩勝峠の天候は芳しくなく、なかなかうまく事が運びません。天候に悩まされるのはほんと嫌ですね。ある程度妥協することにしました。多少の雲は仕方ないとして、雲影を考慮して、今回は線形が写ることを優先にしました。
前述のように、狩勝峠へは夕張山地と大雪山地と、高めの山々を2回越えていきます。なので、往復とも視程がクリアでないといけません。9月10日、天気概況を確認して丘珠空港から飛びました。だいたい真っ直ぐ東へ。前方に夕張山地の尾根が見えてきます。眼下にはちょうど建設中のダムと、それにより水没する大夕張の鉄道遺構が望めます。これは帰りがけに撮るとして、狩勝峠へ向かいました。
根室本線と石勝線は列車の本数が少ないです。昼間の撮影となるので、なるべく上下列車が固まる時間帯が望ましいです。調べると、14時台に特急1本、貨物1本が狩勝峠を走ります。時間を逆算して丘珠を離陸しましたが、やはり前方には雲がポコポコ浮いていました。
狩勝峠へ到着すると、大地に馬蹄型のΩ(オメガ)カーブを描く線路がすぐ見えます。地形図で見たよりも広大に感じました。「でかいな……」思わず呟くほどの大きさです。雲影も残るし、さてどうやって撮ろうか……。
狩勝峠は新狩勝トンネルから新得駅まで、あまりに広大な大地をΩカーブと幾多のカーブでクネクネ曲がっています。高度をあげて全部入れたいけれど、こう雲が多くては雲の中に入ってしまうので上昇できない。そこでまずアングルの確認をします。西から、南から、新得駅から、列車がいない状態で線形を主役にして撮影します。押さえカットです。
やがて、新得駅から上りの特急「スーパーとかち」が発車しました。キハ261系の4両編成です。軽快に走るキハ261系を追尾しながら、Ωカーブの全景を撮るとあまりに広大すぎるから、列車が小さすぎてしまうと危惧し、急きょ「寄り」のカットへと作戦変更します。Ωカーブの一部を切り取るように撮影しました。キハ261系は広内信号場のスノーシェッドへ吸い込まれます。信号場には下りの貨物列車が停車しており、今度はこの貨物列車を追います。
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Writer: 吉永陽一(写真作家)
1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。