【空から撮った鉄道】京浜工業地帯の埋立地を結ぶ小路線 鶴見線 横浜市内でも個性的なロケーション

神奈川県の京浜工業地帯を走る鶴見線は、京浜東北線鶴見駅を起点とし、本線とふたつの支線から成る、合計9.7kmの小路線です。沿線のほとんどの場所が埋立地であり、3両編成の電車が走る姿を、何度か捉えてきました。

鶴見線を空撮するのはちょっと厄介

 鶴見線は、鶴見の京浜工業地帯の埋立地を結んでいます。鶴見駅の2階から高架橋が伸び、東海道本線を跨いで、工業地帯の埋立地へ分け入ると、海芝浦駅方面と大川駅方面へふたつの支線が分岐します。本線は扇町駅が終点で、本線も支線も、大小の工場に囲まれており、工場への通勤輸送が主役の路線です。鶴見線の前身は鶴見臨港鉄道という私鉄で、戦時中に国鉄へ買収されました。

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ホームが海に面し、東芝(東芝エネルギーシステムズ)の敷地内にあることから関係者以外は改札外に出ることができない海芝浦駅。鶴見行きの205系1100番台が停車しているが、冬の平日かつ日中ということでホーム上には人の姿が見えない(2011年2月22日、吉永陽一撮影)。

 鶴見線は東京の「電車特定区間内」や「横浜市内」の部類に入る路線です。とはいえ、同じ区間内の路線と比較すると、かなり個性的なロケーションでして、起点の鶴見駅は前身が私鉄であったために、京浜東北線とは独立した高架にホームがあります。沿線のほとんどが工場脇を走り、海芝浦支線の終点、海芝浦駅は海に面しているうえに東芝の敷地内にあるため、改札外へ出られません。まるで、工場地帯を結ぶ専用線のような存在です。

 この個性的な路線は、集中して空撮したことがいままで一度もなく、何かのついでにフラッと立ち寄った程度です。それが何年も積み重なり、こうして今回紹介することができました。埋立地の工場地帯を3両編成の205系が走る姿は絵になり、私はヘロヘロっとした引き込み線や複雑に曲がる線路が大好きなので、地上でも空からでも鶴見線のロケーションは好きになりました。

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川崎大師付近の上空から南西側を撮影した。画面中央やや右下に浜川崎駅の貨物仕分け線が見え、右上方向に向かってS字カーブを描いた先に武蔵白石駅、安善駅、浅野駅が。左に向かって運河を渡って先に昭和駅、その先に扇町駅が一望できる(2015年7月15日、吉永陽一撮影)。

 ただし空撮する時は少々厄介で、沿線の埋立地は京浜工業地帯のため、安全面や保安面で一部エリアが飛行制限されているため迂回せねばならず、全線をくまなく空撮しにくい事情があります。また大川支線を走る時間帯は朝夕ばかりで、飛行する時間帯と合いません。それらの事情から、全線ではなくかいつまんでの紹介となります。

 初めて空撮した時は東日本大震災の少し前でした。ちょうど横浜港から帰投するとき、海芝浦駅のホームに205系が停車しているのが確認できました。天候は冬らしい淡い光に包まれた晴れで、せっかくだからと海に面した工場内の駅を空撮。あまりにも東芝の敷地に近接しているため、工場敷地が写真に入らないよう工夫するのが大変でした。余談ですが、このときのパイロットは前職が元JRの駅員で、「マルスの扱いは速かったですよ」と告白? してくれました。鉄道を空撮しながら、パイロットと鉄道談義で盛り上がるのは楽しいものです。

 その後はたびたび沿線上空へ訪れ、205系を見つけては撮るという、「ちょこっと空撮」ばかりやっていました。高めの高度で移動する時は、どんなところを走っているか説明も必要だと思い、埋立地の全景を撮ることもありました。また空撮していて気がついたのは、工業地帯の埋立地とはいっても住宅地もいくつかあって、生活のにおいがします。住宅地は線路の北側にあって、南側はすべて工場と、きっぱり分かれているのが興味深いですね。

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鶴見行きの列車が鶴見小野駅を出発する。同駅周辺は住宅が立ち並び、工場地帯とは異なる風景が展開する(2016年6月3日、吉永陽一撮影)。

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Writer:

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

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