運転士は指揮者?「鉄道会社の吹奏楽団」多かったワケ 昭和に全盛 仕事との両立に苦心

練習も本番も全員集合は困難 それでも…

 鉄道業界は、1日8時間・週40時間制の労働基準法第36条を基本とする一般企業と違い、労働基準法施行規則などによって、不規則な長時間勤務や泊まりも伴う「変形労働時間制」が適用されます。社会人の吹奏楽団は各地域に数多くありますが、多くが決まった曜日・日時に練習を行うため、鉄道員の入団はかなり困難でしょう。

 そうしたなか鉄道会社の吹奏楽団は、全体練習のスケジュールを固定せず「集まれる時に集まる」練習体系を敷いたり、いないパートは同じ楽器の誰かがカバーしたりするなど、状況に合わせた練習を行っています。

 なかにはJR西日本吹奏楽団のように、広島や米子などに勤務するメンバーが数百kmを移動(費用は各自負担)して、大阪での合奏に駆けつけるケースも。しかし練習だけでなく、本番でも揃っての出場が難しいため、かつて実績を上げていた富山地方鉄道をはじめ、多くの団体が吹奏楽コンクールへの出場を取りやめています。

 また所属する団員も、個人練習には困難が伴います。わずかな時間で「指回し」(演奏時の指の動きを楽器を持たずに練習する)や、個人でカラオケボックスを借りて練習(店の許可を得た上で)するなど、さまざまな工夫で練習時間を捻出しているそうで、全員集まって毎日何時間も練習できた学生時代とは、やはり勝手が違うようです。

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JR九州吹奏楽団。「JRグループ音楽連盟 第4回定期演奏会@北九州」にて(画像:JR九州)。

 それでも、鉄道員のプレイヤーたちはマスコン(鉄道車両のハンドル)や保線の腰道具を楽器に持ち換え、少ない時間で吹奏楽の響きを作り上げています。彼らを突き動かしているのはやはり「音楽が好き」「吹奏楽が好き」という気持ちではないでしょうか。

 なお2020年は新型コロナウイルスの影響により多くの団体が活動を休止していますが、通常時には、西日本・東日本・九州などJR各社の吹奏楽団は鉄道施設でのコンサートが多く、プログラムには社歌や鉄道に関する曲が目立ちます。また名鉄ブラスバンド部が自社(名古屋鉄道)スポンサーの競馬レースで披露する「名鉄特急のミュージックホーン風ファンファーレ」は、中京圏の競馬ファンにはおなじみではないでしょうか(2020年は無観客開催のため生演奏なし)。

 コンサートを行える環境になり演奏を見かけた際には、ホームやコンコースに響く吹奏楽の響きに耳を傾けてみましょう。ひょっとしたら華麗にソロを決めている奏者が、実はいつもよく見る運転士さんだった、などということもあるかもしれません。

【了】

【写真】マスコンをタクトに…2人の“電車運転士”指揮者

Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)

香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。

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コメント

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1件のコメント

  1. 「名鉄杯」には最後の方で触れていましたか…あれを動画で聞いたときには3分間笑い転げました(失礼)。あのミュージックホーンがそれだけ多くの人に知られているからこその採用なのでしょう。