命より大事な「爆撃照準器」! WW2期米軍の最高機密 ピクルスの樽も狙えたって本当?
精度はピクルスの漬物樽からサッカーコートまで
これほどまでの最高機密でしたが、絶対的な効果を発揮する「魔弾の射手」というわけではありませんでした。操作が難しく誰でも完璧に扱える代物ではなく、複雑精緻でアメリカの工業力をもってしても品質を一定に保つことが難しく、実戦ではしょっちゅう故障しました。
1940(昭和15)年に実施された、条件が整ったテストでは、高度9100mからの半数必中界(投弾の半分の着弾が見込める半径範囲)は4.6mという、驚異的な精度を示すこともありましたが、爆撃隊の実績では半分の高度4600mでも、半数必中界は120mというレベルでした。調子が良ければそれこそピクルスの漬物樽も狙えましたが、悪ければサッカーコートくらいの範囲に散らばってしまった、というわけです。
それでもノルデン照準器がその名を知られるのは、職人芸が必要だった爆撃照準を、誰でも一定の精度を発揮でき(たとえサッカーコートに散らばるレベルでも)、何より大量生産されてあらゆる爆撃機に搭載され、そのマス効果によって爆撃精度向上に貢献したことです。この1920年代生まれの「魔弾の射手」は改良を重ねながら、1973(昭和48)年のベトナム戦争まで使われ続けます。
1945(昭和20)年8月6日には、B-29爆撃機「エノラ・ゲイ」が高度9632mからノルデン爆撃照準器を使って広島に原爆を投下します。標的から250mも外しましたが、そもそもピクルスの漬物樽に入るような精度など必要ありませんでした。
【了】
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
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