計56輪! 鉄道車両メーカーが開発した超大型ムカデ車両 新国産ロケット「H3」と深い関係

新型ドーリーの性能は?

 力持ちである代わりに速度は遅く、最高速度は直線で2km/h、カーブで1km/h。軽量化のために華奢な構造となっているロケットを倒したり壊したりしないよう、水平を保ち、静かに運びます。

 日本車輌製造の担当者いわく、この背が高く重いものを傾けず静かに運ばなければならない、という条件をクリアするのが開発するうえで最も難しかった部分ということです。苦心の結果、水平はプラス・マイナス0.2度、加減速時の加速度は0.08G以下となりました。

 運転席には運搬時に人が乗りますが、これは緊急停止したり、トラブル時に迅速に対応したりするためで、基本的には走行路や発射台に埋め込まれたガイド用の磁石をセンサーでたどり、自動で走ります。

 重いものを支える基礎となる台枠の部分には、日本車輌が鉄道車両や橋の製造でつちかった重量構造物の技術が生かされています。また、4基搭載されているディーゼルエンジンは鉄道用のものを元に、大きなトルクが出るようにチューンナップしているとのことです。

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車体下面に取り付けられたガイド用センサー(金木利憲撮影)。

 新型ドーリーは種子島宇宙センターに運び込まれ、2019年度から翌2020年度にかけテスト走行が行われました。

 2021年3月17日および18日には極低温点検(打上げ当日と同じ手順でロケットに推進薬を充填し、ロケットおよび地上設備の機能等を確認する試験)において、始めてH3ロケットを載せた姿で私たちの目の前に現れています。

 30年ぶりの新たな国産大型ロケットH3の打ち上げに合わせて新造された日本車輌製造のドーリー。確実に必要な車両ながら目立たないその様子は、まさしく「縁の下の力持ち」そのものです。打ち上げのニュースや動画を目にした際に、こうした「裏方」にまで頭を巡らせてみると、国産ロケットもまた違う視点で楽しめるかもしれません。

【了】

【写真】どうなってる? ドーリーの運転席

Writer: 金木利憲(東京とびもの学会)

あるときは宇宙開発フリーライター、あるときは古典文学を教える大学教員。ロケット打ち上げに魅せられ、国内・海外での打ち上げ見学経験は30回に及ぶ。「液酸/液水」名義で打ち上げ見学記などの自費出版も。最近は日本の宇宙開発史の掘り起こしをしつつ、中国とインドの宇宙開発に注目している。

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コメント

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1件のコメント

  1. ドーリーというと映画撮影のときにキャメラを迅速に横移動させるのに使われるトロッコ的なヤツを思い出します。