零戦の性能どうやって決まった? 日米のエンジン差が影響 厳しい設計の背景

零戦のエンジンを最初から「金星」にしたら?

 極論すると、零戦は当初から低出力なエンジンを補うために、機体設計で何とかするしかなかったといえるでしょう。ただ、一方で零戦の設計を語るうえにおいて「高出力の金星発動機を搭載すれば高性能になったのではないか」という指摘もあります。

 これは本当でしょうか。1939(昭和14)年10月に金星エンジンを搭載した零戦が計画されましたが、三菱側は局地戦闘機「雷電」の開発で余力がないと断っています。この時に「雷電」を他社が手掛けていれば、高性能な戦闘機が得られたのでしょうか。

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終戦後にアメリカ軍が接収しテストを行う旧日本海軍の局地戦闘機「雷電」(画像:アメリカ海軍)。

 三菱も、一回は「金星」エンジン搭載零戦の開発を断ったものの、太平洋戦争末期に性能的な限界を迎えていた零戦を改良すべく、エンジンを「栄」から「金星」に換装した零戦五四型を生み出しています。零戦五四型は、換装後に重量が180kg増加していますが、エンジン本体の重量増加分は104kgのため、それ以外で76kg増えていることになります。

 これを踏まえると、零戦の初期型である二一型で、搭載エンジンを「栄」一二型から同時期に量産されていた「金星」四〇型に変えた場合では発動機で20kg増え、20+76=96kgは重くなると推測されます。

「金星」四〇型を搭載した零戦は、96kg増えるなら自重は1848kg程度となり、零戦二一型の1754kgより重くなります。エンジンを「栄」一二型から同二一型へ換装した零戦二二型(1863kg)と大差ない重量である一方、出力は「金星」四〇型は1060馬力であるのに対し、実際に零戦二二型が搭載した「栄」二一型は1130馬力で大差ないため、「金星」四〇方に換装したとしても性能向上は微妙でしょう。

 なお、海軍は「栄を金星とすれば航続力が20%低下する」と試算しており、史実のような大滞空時間を活かした活躍も難しかったと思われます。

 より出力を向上した「金星」五〇型(1300馬力)なら性能向上が見込めますが、これは太平洋戦争中盤以降の登場で、実際に搭載した九九式艦上爆撃機二二型は、1943(昭和18)年1月の登場です。零戦が圧倒されたアメリカ海軍のF6F「ヘルキャット」艦上戦闘機は、この頃には実用化されており、勝ち目がありません。つまり、「金星」エンジンへの換装は無意味と考えられます。

 零戦でやや残念なのは、設計側が想定した三菱製エンジンである「瑞星」一三型を、「栄」ではなく性能向上型の「瑞星」二一型に換装できなかったことです。「瑞星」エンジンを搭載した零戦は出力875馬力ながら、機体下部に膨らみがないなど、空力的に「栄」搭載零戦より優れていたからか、ほぼ同じ性能を発揮したとされています。

「瑞星」二一型エンジンは、出力1080馬力で1段2速過給機も装備し、史実の「栄」一二型より出力も高空性能も上でした。この発動機はトラブルを起こしつつも、1940(昭和15)年より量産に移行しましたから、「瑞星」二一型へのエンジン換装が実現し、かつトラブルも少なければ、史実よりやや高性能な零戦二一型が、開戦後すぐに登場したかもしれません。

【了】

【写真】アメリカで展示されている零戦二一型

Writer: 安藤昌季(乗りものライター)

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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コメント

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7件のコメント

  1. ゼロ戦やその開発者に対して腫れ物にでも触るような中途半端な記事だと思う。私だったら、ずばりゼロ戦なんか真っ平御免。F6Fに乗って闘いたい。F6Fのエンジン出力はゼロ戦の2倍の二千馬力。パイロットの前後左右に配置されたゼロ戦には決して撃ち抜けない防弾板は、総重量100kg弱。ゼロ戦とは、すなわち貧者の武器だった。精神主義の行き着いた先が、不条理な社会。今のブラック企業の先祖。

  2. F6Fを盲信してる人間がいるようだが零戦には20ミリやら13ミリやら着いてるの忘れたみたいだねそもそも航空機は足で地べたはう戦いとは違うのはミッドウェーまでのキルデス比を見ればわかるだろ。盲信君が乗ったら零戦にまんまと格闘戦乗せられて落とされるだろうな。自分を守る防弾板は自分の重荷となることもあるんだよ

  3. ゼロ戦がヘルキャットに圧倒されたなんて嘘を未だに信じてる人間がいるんですね。
    驚きを隠せません。
    各国の主要戦闘機のスペック表見ただけで、個人的にはゼロかスピット以外乗りたくありません。
    終戦まで防弾版を外して軽量化したF4Fワイルドキャットで戦い抜いたアメリカのエースパイロットの話を知らないんでしょうか。
    ヘルキャットは重すぎてゼロ戦の相手は不可能だと断言していたそうです。

    最高速(その国によって計測の条件が違う)とか、公称馬力のみで戦闘を騙り、何の根拠もなく戦うのが厳しいと断言してみたり・・・。
    この程度の知識量、考察(想像力)で、よく恥ずかしげもなく記事を不特定多数の人間にむけ公開できましたね。
    ライターって随分と楽な仕事なんですね~。

  4. 海外で損害報告を照らし合わせてオスプレイの対決シリーズ等の本を書いてる研究者に言わせれば
    米軍の空戦での戦果誤認は少なく見積もっても7倍はあるのだそうで
    日本でも梅本弘氏が海軍零戦隊撃墜戦記で敵味方の損害報告を照らし合わせた結果
    1943年に7倍のキルレシオがあるはずのF4Fが「零戦の行方不明、未帰還を全部撃墜されたと数えても」
    実際には負けていることを証明している。
    (梅本氏はF4Fには未帰還でも機械故障や同士討ち、陸攻の戦果報告とつじつまが合う等は零戦の戦果でないと結構認めているが、零戦にはそれらを基本認めていない。零戦は故障しないのだろうか?F4Fは未帰還だけど故障と認められている数だけでもそこそこあるのだが)

    自分は零戦がF6Fより強いと思っているわけではないが、20mmの炸裂弾だと防弾など関係なく機体構造を崩壊させられかねないので、零戦に撃たれる側は勘弁願う
    制御不能の機体で脱出もできず破滅を待つのは嫌だというのは、スピン回復しづらい機体でスピンに入ったことのある人なら賛同してくれるだろう。原形をとどめててくれないと脱出も結構難しい

  5. そういえば忘れてましたが
    アメリカのエースEdward O'Hareは
    F6F搭乗中に一式陸攻の7.7mm機銃で射殺された。というのが定説です。
    全面装甲で覆えてる訳もなく、7.7mm機銃は近距離で10mm程の装甲板を貫通するので
    F6Fパイロットが7.7mmで致命傷を負うというのは何の不思議もありません。
    また、13mm機銃以上なら当時の空戦の一般的な射距離の全域でF6Fの装甲は貫通します。

  6. どっちが強いのか議論は今現在両方を飛ばせる人に聞くのが一番。それはCAFで、22型がある。パイロットによると200ノット以下だったら操縦性最高、ロールはF4Uの倍速くデモでは手を抜かなくてはならない、低速域だったらF8F以外はどの国の戦闘機も敵わない。但し200超えると操縦性ガタ落ち。
    高速戦闘機が現れだした後期、空中戦の速度は上がり、空中戦での優位性も衰えたのでしょう。多くの日本パイロットが中高度低速に持ち込まなければならなかったと記述してるのはそのためです。
    更にF8Fが実戦投入されていたらどの観点からも勝てなかったということになります。

    • パイロットの操縦感覚はいつも乗っている機体に影響されるので
      数字についてはあいまいにしておく方が良いですよ
      零戦について米陸軍では計器指示で300mphまで操縦しやすいとしています
      (21型、32型のレポートの記載)
      零戦のピトー管の位置誤差は計器指示300mphで12mph余りなので
      (32型と52型のレポートから)
      米陸軍基準では312mph(503km/h、272kt)辺りまで操縦しやすいということですね
      52型は250mphまでsuperior to that of any AAF fighterとのことで
      米陸軍機は米海軍機ほど操縦し易くないのでしょう艦載機は操縦し易い傾向にありますからね