【空から撮った鉄道】世界でも類をみない18段連続スイッチバック 立山砂防工事専用軌道

ループ線、スイッチバックなど、世界には様々な線形があります。そして、世界でも類をみない18段連続スイッチバックが日本にあります。立山連峰の常願寺川沿いに伸びる国土交通省立山砂防工事専用軌道です。2013年9月、連続スイッチバックを中心に空撮しました。

この記事の目次

・普段は一般の人が乗車できない軌道
・撮影は気候が安定した時期を狙ったが
・3回目にしてようやく
・平日だけれど列車本数は少なく
・18段連続スイッチバックの上空ではグルグル旋回

【画像枚数】全19枚

普段は一般の人が乗車できない軌道

 立山連峰の室堂平は、立山黒部アルペンルートの中継地点であり、シーズンとなると多くの観光客や登山者で賑わいます。室堂平から西に弥陀ヶ原があり、弥陀ヶ原から南下すると一気にストンと落ちる地形となって、常願寺川が流れています。この常願寺川に沿って、国土交通省立山砂防工事専用軌道があります。

 立山砂防工事専用軌道(以下、立山砂防軌道)は、常願寺川の砂防ダム建設工事のために活躍する軌道で、軌間は610mmと大変狭いゲージです。砂防ダムは、立山カルデラの脆い地形で発生する土石流を食い止めるため、明治時代から行われている事業で、その輸送に立山砂防軌道は活躍しています。軌道は1929(昭和4年)に開通。立山駅付近の千寿ヶ原から常願寺川に沿って水谷へ至る約18kmの路線で、工事専用のため、一般者は乗ることができません。

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小柄な人車(人員輸送車)をけん引するディーゼル機関車が18段連続スイッチバックを行く(2013年9月18日、吉永陽一撮影)。

 沿線で特筆されるのは連続スイッチバックです。終点の水谷へ至る直前に200mの高低差を進まねばならないのですが、そこを18段連続スイッチバックで越していることです。ここまでの多段スイッチバックは世界でも類のない存在で、我々があまり目にすることのない立山の奥地にあるというのも、謎めいて神秘的なものを感じます。この軌道のスイッチバックはここだけでなく全部で38段もあり、常願寺川沿いを進むルートは決して平坦ではありません。

撮影は気候が安定した時期を狙ったが

 そんな秘境のような険路を行く立山砂防軌道を空撮したい。ちょうど空鉄本の2冊目を準備しており、18段連続スイッチバックはメインのひとつとして扱うことが決まりました。とはいえ、空撮は容易ではありません。軌道は標高1000m級のV字の谷底にあります。周囲は立山連峰の雄山や剱岳といった3000m級の秀峰が連なる険しい山々。その麓へ潜り込む形で空撮せねばなりません。必然的に安定した天候で狙うこととなりました。

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立山砂防軌道の起点 千寿ヶ原連絡所。連絡所とはいわゆる駅。画面中央の大きい建物が国土交通省北陸地方整備局の立山砂防事務所で、画面右下のヘリポートがある建物の1階が車庫となっている(2013年9月18日、吉永陽一撮影)。

 締め切りを考慮して9月半ばに撮影日を設定しました。あまり遅い季節だと影が伸びてきてしまうので、9月の比較的安定した時期を狙うことにしました。しかし、なかなか安定した天候がやってきません。

 離着陸は天候の読めやすい最寄りの空港が望ましいものの、一番近い富山空港には空撮機はなく、松本空港からの発着となりました。となると、北アルプス、黒部ダム、雄山を越えていかねばなりません。立山黒部アルペンルートに沿っていくこととなり、より一層安定した天候を狙わざるを得ません。

3回目にしてようやく

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Writer: 吉永陽一(写真作家)

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

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