「アイアンドーム」は鉄壁のバリアか イスラエル防空の要が日本では使えなさそうなワケ

高性能のはずのアイアンドームだけど米軍が導入に二の足をふむ理由

 日本で「アイアンドーム」の採用される可能性がほぼない理由は、これがイスラエル用に特化されたシステムだからです。カバーできる範囲が100平方キロメートルから150平方キロメートルと中途半端で、イスラエルのような小国の都市防衛向けです。迎撃率90%と言われますが、迎撃範囲は限定され高価値地域以外に落下すると識別されたものは迎撃しません。無駄弾を撃たないので迎撃率の数字は上がります。5月の実戦ではイスラエル領内に飛来した約3000発のうち、半分の1500発は着弾しても被害が少ないと識別されて、迎撃されていません。

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テルアビブ近郊に配備された指揮管制ユニットを見学するアメリカ大使館員(画像:アメリカ国務省)。

 かつてアメリカ陸軍が「アイアンドーム」の実績に注目し、ロケット弾や迫撃砲弾に悩まされる海外キャンプ防御用に2個大隊分、導入しました。しかし2021年現在、2個大隊ともアメリカ国内に留め置かれています。指揮管制システムがイスラエル規格となっており、アメリカ陸軍の規格と整合性が悪く、使い勝手が良くないようです。話題性のせいかアメリカ議会では追加導入に積極的ですが、陸軍は逆に消極的です。

 ハマスが使用したロケット弾は1発7万円から10万円、迫撃砲弾は1万円しないものもあります。これを1発4万ドル(約440万円)のタミルミサイルで迎撃していては、コストパフォーマンスは最悪です。人口密集地に着弾して被害を出すよりはるかにマシなのですが、近距離で迎撃できても破片は降り注ぎます。リスクはゼロにはならないのです。そのためにイスラエルは都市に防空壕を用意しています。

 ハマスがこれ以上、ロケット弾の飽和攻撃を仕掛けてきたら「アイアンドーム」でも限界があります。そこでイスラエルは空爆を開始し、境界線に戦車を押し立てて地上軍を進めました。つまり、これ以上の攻撃には容赦しない、という姿勢を見せたのです。これが抑止力の本質です。防衛というのはいくら高性能な兵器でも単品で達成できるものではありません。

 イスラエルの兵器は、よく実戦を戦い高性能、強力なイメージがありますが、それはイスラエル軍がイスラエルで使うように最適化され使いこなせる体勢にあるからこその威力です。「アイアンドーム」を日本に持ち込んでも、使い物になるかはわかりませんし、多分、使えません。

【了】
※一部修正しました(6月14日13時20分)。

【写真】空を舞うミサイルの軌跡 「アイアンドーム」迎撃の様子

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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コメント

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3件のコメント

  1. 中長距離ミサイルとロケット弾の迎撃は全く違うので、日本に導入しても使えないと思う。

  2. 最近の近隣諸国のミサイルは必ずしも放物線を描いて落下してくるのではないんじゃないですか

  3. 沖縄でのドローン対策としてはどうなのでしょう?面積の点で小国くらいですし。 中国はドローン空母とか持ってるようですが、報道では、ドローンを撃墜する能力もありそうです。