日本の航空モノづくり危機 旅客需要の回復後も停滞必至 失うわけにいかないその意義【Merkmal】

支援要請に日本政府は?

 このため、仮にIATAの予測した通り2024年に航空旅客需要が回復したとしても、日本の航空産業がその恩恵を受けられるのは、2025年以降になる可能性が高い。

 旅客機需要の激減はSJACに加盟する大手企業にとっても大きな痛手だが、大手企業からの受注により部品の製造などを手がける下請企業にとっては死活問題となっている。このためSJACに加盟する重工各社は、需要回復後のサプライチェーンを維持するため、国内の下請企業の支援策を講じている。

 SJACが発表した重工各社の支援策をまとめた「Wingサポートアクション」には、航空機以外の仕事や、下請企業従業員の出向受け入れ先企業、需要回復後に国際競争力を獲得するためのデジタル化と自動化の支援などを紹介している。このほか、下請企業の資金繰りを支援するため支払期間の短縮化や前倒し、現金払い、前渡金の支払いも紹介しているが、民間企業による下請企業の雇用確保と資金繰りの支援には限界がある。

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記者会見を行った日本航空宇宙工業会の村山 滋会長(竹内 修撮影)。

 SJACもその点は認めており、政府に対して雇用調整助成金の特例措置延長や、資金繰りの補助、設備導入資金助成、産官学連携での教育体制の構築、教育のための費用助成、防衛調達の支払い前倒しなど、国の有効な支援制度が継続・新設されることが強く望まれるとの声明を発表し、政府への働きかけも行っている。しかし今のところ政府から有効な対策は示されていない。

 これまで日本の工業を牽引してきた自動車や白物家電は、中国をはじめとする新興工業国の追い上げにより相対的に競争力が低下している。一方、自動車などで培ってきた高い技術力が生かせる航空産業は、新興工業国と競争で優位に立てる新たな基幹産業のひとつとなり得る。また、航空産業基盤の維持育成は安全保障においても大きなプラスともなることから、政府はより積極的な支援を行うべきであると筆者は思う。

【了】

提供:Merkmal
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【航空産業の今をサクッと知る】今後の航空旅客需要見通し/メーカーの危機対応

Writer: 竹内 修(航空ジャーナリスト)

海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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