英露がクリミア沖での軍艦の通航めぐり応酬 警告射撃に示威飛行…非はどちらに?

ロシア側の行動に関する問題点

 それでは、今回のロシア側の行動は国際法的には問題ないのでしょうか。

 当該海域をロシア領海と仮定した場合には、ロシア側の措置が明確に国際法に違反するとはいえないかもしれません。たとえば、もしロシア側が2018年の事例のように「ディフェンダー」に対して停船を命じて乗り込みや拿捕を行っていれば、これは違法な執行管轄権の行使に該当しますし、直接攻撃した場合にはイギリスに対する武力攻撃と見做され、「ディフェンダー」による自衛権の行使さえも許容され得たでしょう。しかし今回、ロシア側の行動は警告射撃にとどまっています。

 ロシアの行動の根拠を、先述したふたつの内のどちらに求めるにせよ、領海外への退去を繰り返し要請してもなおこれに従わない艦艇に対して、沿岸国は領海外退去を促すための一定の措置をとることができます。この措置の具体的な内容についてはさまざまな議論がありますが、そのなかには一定の要件の下に警告射撃なども含まれ得るという解釈も広く存在します。また。ロシア側が公表した警告射撃時の動画を確認すると、まず警備艦艇は空に向かって機関砲の銃身を指向し、かつ「ディフェンダー」との距離も相当離れた状況で発砲していることから、今回の警告射撃は非常に抑制的なものであったことがうかがえます。そのため、今回のロシア側の行動をすぐさま明確な国際法違反と主張することは難しいのです。

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スホーイSu-24戦闘爆撃機(画像:スホーイ)。

 しかし、上記の整理はあくまでも「クリミア半島をロシア領と仮定した場合」の話です。実際には、その併合の過程などを踏まえると、イギリスの主張どおり、これをロシア領と認めることは極めて困難といえます。そのため、そもそもロシアがこのような措置をとる根拠自体が存在せず、ロシア側の行為が国際法に違反すると整理することは十分可能です。

 じつは、今回の事件の主役ともいうべき「ディフェンダー」は、イギリスの空母「クイーンエリザベス」を中心とする空母打撃群の一翼を担う艦艇であり、これから日本を含むインド太平洋地域を歴訪する予定となっています。その際、南シナ海や東シナ海でどのような活動に従事するのか、注目が集まります。

【了】

【画像】ロシア国防省が公開した「ディフェンダー」への一連の対応の様子

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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