大和以前の“世界最大の戦艦”一瞬で沈んだワケ 大英帝国の象徴だった「フッド」
一瞬で爆沈した「フッド」の悲劇
ところが、このイギリスの誇りともいえる「フッド」を無情な惨劇が襲います。それが冒頭に記したデンマーク海峡海戦での轟沈でした。
1941(昭和16)年5月23日にドイツの最新鋭戦艦「ビスマルク」との間で戦われたこの戦いにおいて、「フッド」は戦闘開始からわずか8分後の被弾で大爆発を起こし、一瞬のうちに沈んでしまったのです。約1420名の乗組員中、生存者はたったの3名でした。
この「フッド」の轟沈について、以前は大落角で命中したビスマルクの38cm主砲弾が、「フッド」も含むイギリス巡洋戦艦に共通の弱点である水平面の薄い装甲を貫通し、後部15インチ主砲弾の弾火薬庫を直撃し、そこにあった砲弾や発射薬を誘爆させた結果といわれていました。
しかし最近の研究では、「フッド」と「ビスマルク」が撃ち合った距離は比較的近かったことから、大落角弾は生じないと見なされるようになってきています。そのため、舷側装甲を貫通した「ビスマルク」の38cm主砲弾が、まず「フッド」の4インチ高角砲(高射砲)の弾薬庫を爆発させ、それが後部15インチ主砲弾の弾火薬庫誘爆の引き金となって同艦を一瞬にして爆沈させた、という説が主流となっています。
なお、イギリス海軍は第2次世界大戦の開戦時、「フッド」「レパルス」「レナウン」という3隻の巡洋戦艦を擁していました。しかしそのうち、1945(昭和20)年の終戦まで生き残ったのは「レナウン」ただ1隻。
日本軍の航空攻撃で沈んだ「レパルス」は別として、巡洋戦艦発祥の国であるイギリスの巡洋戦艦には、第1次世界大戦時の「ユトランド沖海戦の悲劇」以来、砲戦下の轟沈という呪いでもかかったかのような「フッド」の最期でした。
【了】
※一部修正しました(8月1日12時14分)。
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
80年前……(ぼそっと)
ご指摘ありがとうございます。修正しました。
二度の世界大戦で轟沈した大型艦船の大半が、
結局は自身の火薬庫の誘爆なんですよね、
その攻撃力故に大量の弾薬を積む怖さ、
表面装甲よりも火薬庫の安全対策こそ求められるべきだったという事実は意外と見過ごされてきた。
合掌