宇宙でも「コーヒーの味指定」OK!? 宇宙ステーションの「飲み物事情」野口宇宙飛行士に聞く
過去には「エスプレッソマシン」の稼働も!?
インタビュー後、あらためて現在の日本宇宙食について調べたところ、三井農林の粉末緑茶と粉末ウーロン茶、大塚製薬のイオンドリンク、森永製菓の森永ミルク生活(宇宙用)が認定されていることがわかりました。宇宙空間では毎週、定期的にゴミの収集があるわけではないため、可能な限りゴミを出さないのは大事な要素です。それもあって、お湯や水で溶かす、茶殻などが出ない粉末タイプとなったとのことでした。
まず、通常食として粉末の果物ジュース(オレンジジュース、いちごジュース、グレープフルーツジュースなど)が用意されています。コーヒーや紅茶も、豆や葉から淹れるものではなく、粉末(インスタント)になっています。
ただし例外もあります。2015(平成27)年から2017(平成29)年にかけ、イタリア宇宙機関の実験として、エスプレッソマシンが持ち込まれて実際にISSでコーヒーが豆から淹れられたことがありました。ISS(国際宇宙ステーション)とエスプレッソ(Espresso)をかけて「ISSpresso(アイエスエスプレッソ)」と名付けられたこの機械は、ともにイタリアに本拠地を置く航空宇宙メーカーのアルゴテック(Argotec)と、コーヒー関連製品メーカーのラバッツァ(Lavazza)が共同開発したもので、コーヒー豆の詰まった専用カプセルをセットして使う本格的なものでした。さしずめ宇宙版「ネスプレッソ」といったところでしょう。なお、無重力に対応するコーヒーカップもあわせて開発され、通常は飲料用のバッグに注ぐところ、この専用カップでコーヒーを飲む宇宙飛行士の写真も公開されています。
食べ物と飲み物は対をなす楽しみですが、飲み物だけ見てもこれだけ進歩していることがわかります。技術的には、宇宙で毎朝、自分好みのコーヒーをコーヒーマシーンで淹れることや、こだわりの茶葉で紅茶を楽しむことができるようになっていますが、物資を運ぶのに多額のお金が掛かるほか、生存に必要な物資や実験機材の優先順位が高くなること、そして廃棄物を減らす必要性から、常時楽しむのはまだ難しいようです。
【了】
Writer: 金木利憲(東京とびもの学会)
あるときは宇宙開発フリーライター、あるときは古典文学を教える大学教員。ロケット打ち上げに魅せられ、国内・海外での打ち上げ見学経験は30回に及ぶ。「液酸/液水」名義で打ち上げ見学記などの自費出版も。最近は日本の宇宙開発史の掘り起こしをしつつ、中国とインドの宇宙開発に注目している。
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