ボーイング「717」のナゾ 命名の法則ガン無視 実は歴史上2機種ある複雑事情
現717は「ボーイング」ですらなかった
現在717と呼ばれているモデルの出自は、ボーイング社のライバルだったダグラス社のジェット旅客機「DC-9」にさかのぼります。DC-9は100人程度の旅客を運ぶことができる双発エンジン搭載の近距離路線用旅客機で、ボーイング727、737のライバル機。日本でDC-9系はTDA(東亜国内航空)、その後進のJAS(日本エアシステム)が採用していました。
DC-9の初期タイプは、1965(昭和40)年にデルタ航空で就航。T字尾翼で胴体後方にエンジンが搭載された「リアマウント」機で、「空の貴婦人」とも呼ばれた先代のDC-8を彷彿とさせる細長い胴体が特徴です。主翼下にエンジンを搭載し、ずんぐりむっくりとしたボーイング737とは一味違ったルックスでした。
DC-9はヒット作となり、胴体延長タイプなどの派生型が次々開発されます。一方、ダグラス社は、ジェット戦闘機などを手掛けたマクダネル社に1967(昭和42)年に吸収。これはDC-9が売れすぎたことも理由のひとつとされています。ただ会社が「マクダネル・ダグラス」と変わったあとも、DC-9シリーズは「MD-80」系という名前のもと、派生型が生み出されることになります。
この最終タイプとなったのが1999(平成11)年にエア・トラン(米LCC、のちサウスウエスト航空が買収)で就航した「MD-95」です。ただ、この前後でMD-95を取り巻く環境は激変します。マクダネル・ダグラス社が、1997(平成9)年、ボーイング社の傘下に入ることになったのです。
このときMD-95の製造中止も検討されたようですが、ユーザーであるエアラインの後継機種との関連などから、名称をボーイング「717」と改称して販売を継続することに。717は、最終的にはダグラス社の製造ラインがあった、カリフォルニアのロングビーチ工場で、2006(平成18)年までに156機が製造されました。ちなみにその後、ロングビーチ工場では、ジェット旅客機を製造していません。
つまり、現「717」は、「元ライバル社の旅客機をボーイング社の製品として販売している」という複雑なモデルなのです。その証拠にダグラスDC-9から続くT字尾翼、リアエンジンの外観はボーイング717でもまったくそのままです。海外では現「717」と、“DC-9の元ライバル”であったボーイング737が、同じ空港に並ぶ光景も、まだ健在です。
【了】
Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)
成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。
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