メソポタミアで出土した戦闘機のナゼ オーパーツならぬMiG-25が埋められた経緯と目的

戦闘機を埋めてどうするつもりだったの?

 イラク戦争は、世界中の誰もがアメリカの勝利を確信し、実際フセイン政権は短期間で打倒されました。政権そのものが無くなるのに、なぜ戦闘機だけ残そうとしたのでしょうか。明らかに合理性がありません。

 その答えはフセイン大統領が逮捕されたことにより、本人の口から明らかにされました。どうやら世界中でただひとりフセイン大統領だけは、自分が敗者となるなど考えてすらいなかったようなのです。

 フセイン大統領の側近たちは、粛清すら厭わぬ強権的独裁者の機嫌を損ねてしまいかねない不愉快な事実よりも、フセイン大統領が好みそうな都合の良い言葉のみを伝えました。「アメリカの警告を無視した場合、大統領閣下、あなたは死にます」などとは、誰も言えなかったのです。

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飛行場外に隠されていたイラク空軍のMiG-23可変後退翼戦闘機(画像:アメリカ空軍)。

 こうしてフセイン大統領は、ブッシュ大統領の警告を単なる脅しだろうと思い込みました。万一の場合でも航空攻撃程度で済むだろうと甘く考え、自分の生死が掛かっていたにも関わらず、戦闘機を温存しなくてはならないという異常な決定を下してしまいます。

 何のことはありません。「メソポタミアのMiG-25」とは『封神演義』に登場する殷の紂王、もしくは「裸の王様」など、世界中どこにでもある独裁者とそれを取り巻くイエスマンらの物語の産物に過ぎなかったのです。

 もしもいま世界のどこかで、何の利益にもならないおかしな行動をしている独裁者がいるとするならば、ひょっとしたらその独裁者はいずれ「メソポタミアのMiG-25」を生み出すことになるかもしれません。

【了】

マトモな姿のMiG-25 写真で見る

Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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コメント

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3件のコメント

  1. つまりモスクワのSu-35に・・・

  2. 皮肉の効いた結びでクスッときた
    こういうの好きですよ

  3. 日本もただでさえ中国と比べて少なすぎる戦闘機、大事に隠匿しましょう。初手で全滅させられてから必要に気づいても無駄です。日本の技術なら数日で出来るでしょうよ。1機130億もするんだから!